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プロ野球

「僕の足りないところを選手が…」工藤監督の言葉が暗示するセ・パ間に横たわる"差"の要因

氏原英明

2020.11.26

選手たちを“信頼”して4連覇を勝ち取った工藤監督(写真中央)。ソフトバンクを強くしているのはこの信頼かもしれない。写真:田口有史

選手たちを“信頼”して4連覇を勝ち取った工藤監督(写真中央)。ソフトバンクを強くしているのはこの信頼かもしれない。写真:田口有史

 4連覇を果たした工藤公康監督が会見で口にした言葉が、ソフトバンクと巨人、いや、もっと言えば、パ・リーグとセ・リーグの間に横たわる"差"のような気がしてならなかった。

「選手たちが100%の力を出してくれました。僕の力が足りないところを選手がカバーしてくれて、頑張ってくれたから、この4連覇があると思います」

 メディア向けに用意された言葉だと受け取るべきではない。この「信頼」こそ、常勝ソフトバンクに渦巻いている空気感だ。工藤監督は心の底から選手を信頼している。監督と選手の信頼関係。勝っているチームほど、そこから生まれるプレーの自由度が高い。

 例えば、巨人が1点を先制をして迎えた第4戦の1回裏、ソフトバンクの1番・周東佑京は2-0からの3球目をスウィングした。結果はファール。巨人の先発、畠世周の立ち上がりが不安定なことを考えれば、2ボールとなった時点で四球を意識してもいいはずだ。

 しかし、ソフトバンクはそれをしない。いや、パ・リーグ2位のロッテも、3位の西武だって、おそらくしないだろう。打者有利のカウントの時、甘いボールが来やすいことは分かりきっているからだ。

 相手が好投手であればあるほど、追い込まれてからボールを捉えることは難しい。本来それは誰でも分かっているはずなのだが、押し並べて、セ・リーグは「待たせる」機会が多い。サインの場合もあれば、チームに漂っている空気がそうさせているケースもある。
 
 もちろん、すべての打席において、打者有利のカウントで勝負できるわけではない。ただ、1打席目の周東に代表されるように、ボールをヒッティングするカウントが、打者に任せられているのが大事なことである。

 この日の巨人は前の3試合に比べれば積極的だった。1回の若林晃弘の先制の口火を切る二塁打も、坂本勇人のタイムリー二塁打も、ファーストストライクを振りに行った打席で生まれている。この日の6安打はすべて、打者が積極的に仕掛けていったからこそ生まれたものだった。結局敗れたとはいえ、これまでとは違う試合展開に持っていけたのは間違いない。

 それだけに、9回表の攻防が悔やまれる。先頭の岡本和真が四球で出塁。さらに1死の後、中島宏之がライト前に打球をはじき返してチャンスを広げた。制球の定まらないソフトバンクのクローザー、森唯斗を打ち崩す絶好の機だったはずだ。

 その場面で打席に立った7番・田中俊太は、最初の3球をよく選んで3ボールまでこぎ着けた。打者有利のカウントとなった4球目、田中は振りに行ってファール。この日ヒットを放った積極性が、この時点ではよく出ていた。ところが、その後は5球目と6球目を立て続けに見逃して、結局見逃し三振に倒れた。

 あの打席の中で田中に何が起きていたかは想像に難くない。おそらく、四球を意識してしまったのだ。3点ビハインドの最終回で、打つことよりも出塁を求める“空気”がチームにあった。だから、打者有利のカウントでみすみす“見送り”を選択してしまった。そして、巨人は敗れた。

 今季、巨人はセ・リーグで圧倒的な強さを発揮して2連覇を果たした。しかし、結局ソフトバンクには歯が立たなかったのだ。これは巨人だけの問題ではない。

 2013年以来、8年連続で日本一の座から遠ざかっているセ・リーグ全体が、工藤監督のように「選手を信頼する野球」をすべきなのではないか。結局のところ、セ・リーグがパ・リーグに屈する要因が、そこにあるような気がしてならない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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