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高校野球

指導者が変わらなければいけない時代――4年ぶりのセンバツ準々決勝で福岡大大濠・八木監督が下した英断〈SLUGGER〉

氏原英明

2021.03.30

エース一人に頼り切りになるのではなく、複数の投手を育成して大会に臨む。八木監督(写真)が見せた変化は高校球界の進化を暗示していた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

エース一人に頼り切りになるのではなく、複数の投手を育成して大会に臨む。八木監督(写真)が見せた変化は高校球界の進化を暗示していた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 4年ぶりとなる大舞台での采配に、指揮官の変化を感じずにはいられなかった。

 福岡大大濠の監督・八木啓伸はこの日の決断を当たり前のことのように振り返った。

「(エースの)毛利(海大)は精神的にも肉体的にも疲れが少なからず残っているので、馬場(拓海)を先発させました。昨年の秋、馬場はこういう場面で投げていましたし、また彼にとってもいい経験ができるはず。総合的に考えて先発を馬場にして、ゲーム展開次第で毛利が控えるという考えでいました」

 これまでの2試合で好投したエース毛利の先発を回避。1、2回戦で計287球を投じていたこと。そして、ここから先の戦いを見据えて大英断を下したのだった。

 その馬場が東海大相模打線に打ち込まれ、福岡大大濠は0対8で敗れた。結果を振り返れば、八木監督の決断は失敗になるわけだが、そこだけを見ていては、現在の球界の状況を理解しているとは言えない。八木監督の決断は、4年前とは好対照だった。
 
 2017年のセンバツで、福岡大大濠は今回と同じようにベスト8進出を果たした。そして、同じように準々決勝ではエースの登板を回避したのだが、当時とは状況は異なる。

 当時の八木監督は一人の投手に頼り切った采配で勝ち抜こうとしていた。

 当時のエースだった三浦銀二(現・法政大)は1回戦の創志学園戦で先発すると149球の完投勝利。4日後の2回戦・滋賀学園戦でも先発したが、延長15回引き分けとなった試合を、最後まで一人で投げ切った。その試合の球数は196球。さらに八木監督は、翌々日の再試合でも三浦を先発・完投させたのだ。5対3で勝ったものの、その日の三浦の球数は130球に達した。

 三浦が力投するタイプの投手ではなかったとはいえ、明らかに苦行だった。指揮官の勝利至上主義と選手のポテンシャルに頼り切った起用であると、疑問を抱かざるを得なかった。

 筆者は当時の取材現場ではもちろんこの問題を提起したし、自著『甲子園という病』でも、こう断罪した。

 <そもそも、福岡大大濠の三浦が190球以上投げた翌々日にも先発した理由は、2番手以降の投手を作ってくることができなかったからだ。つまり、指導者に責任がある。前年秋の公式戦で、八木監督は三浦以外の投手を一人も登板させなかった。地域の予選では少し登板させたようだが、福岡大会、九州大会、神宮大会と目先の試合で勝利することに突っ走り、安定感のある三浦だけをマウンドに立たせてきたのである。>
 

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