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高校野球

「高校野球は9人でやる」時代は終わりを迎えた。甲子園の選手起用に見る指導者の意識改革<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.27

夏では実に15年ぶりの4強進出を果たした智弁和歌山。その裏には「全員野球」へのこだわりがあった。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

夏では実に15年ぶりの4強進出を果たした智弁和歌山。その裏には「全員野球」へのこだわりがあった。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 8月26日の甲子園準々決勝第2試合、智弁和歌山と石見智翠館の対戦は、まるでプロ野球の試合を見ているかのようだった。
 
 7回表のことだ。7対0と大量リードする智弁和歌山だったが、8番・投手の塩路柊季のところで代打・石平創士を告げるとともに、ベンチが慌ただしく動き出した。石平は一飛に倒れたが、その後3連打で2点を追加。

 さらにその裏には守備固めに入り、石平のところにレフトの須川光大を入れ、3番レフトでスタメン出場していた角井翔一朗のところには投手の高橋玲を起用した。投手の代打にそのまま投手を入れるのではなくて、打順の回りが一番遠いところに投手を入れる。代わりに守備固めは打席の巡りが早い位置に入れる。

 高校野球では守備固めの選手でも打順はそのままということが多いのだが、智弁和歌山はまるでプロ野球のような選手交代をやってのけたのである。さらに9回にも投手・高橋のところに代打を出し、リリーフと守備固めでさらに3人の選手を追加で起用したため、ベンチ入りする全選手がこの大会で出場を果たしたことになる。

 これが、かつて阪神や楽天などで捕手としてプレーした元プロ野球選手の指導者、中谷仁監督のマネジメントだ。
 
 中谷には「全員出場」に対する信念がある。

「非常に難しいけど、大会において、全員が出場してみんなが勝つために役割を果たしていけるチームを目指しています。(前任の監督である)高嶋仁先生が作ってこられた智弁和歌山は勝たなければいけない。その使命感を持ちながらやり遂げたいと思います。甲子園の大会で、1イニングでも一人でも投げるということが彼らの経験や財産になると思います。多くの投手が投げたこと、そして勝てたことは嬉しく思っています」

 中谷はプロ出身だからなのか、選手起用の運用がうまいと感じる。「セ・リーグのチームに在籍したことが生きている」と本人は語るが、投手への代打から複数の選手交代につなげていくところなどは、まさにDH制のないセ・リーグのような起用だ。智弁和歌山では故障防止の観点から投手全員を戦力にすることを念頭に置いているが、それに付随して野手の出場機会も創出しているというわけである。

 もっとも、今大会を総じて見て思うことでもあるが、「高校野球は9人でやる」時代は終わりに来ているのかもしれない。

 神戸国際大付の青木尚龍監督も「全員野球」を標榜し、3回戦の長崎商戦では15人、準々決勝の近江戦では17人を出場させた。

「上手くなりたい、試合に出たいという想いが選手たちにはあると思うんです。控え選手でも試合に出すことを続けることによって、戦力アップになっているのはあると思います。県大会メンバーの20人から甲子園メンバー18人に絞る時でも、何かの場面で必要になる選手を、と思って選んでいます。もちろん、試合を戦う上ではスタメンの選手が最後まで頑張ってくれたらいいこともありますけど、相手もあることなんでね。うまくいかなかったときに対応してくれるようになれば、チームは良い結果を生み出すと思います」
 
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