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MLB

【メジャーリーグMVPの歴史と変遷:前編】「2度受賞禁止」に「野手優先」……評価基準に対するこれまでの試行錯誤の数々<SLUGGER>

出野哲也

2021.11.09

野手重視のカベに阻まれて受賞できなかったのが99年のマルティネス(右)。受賞したロドリゲス(左)も素晴らしい成績だったが、それ以上にマルティネスの成績が傑出していた。(C)Getty Images

野手重視のカベに阻まれて受賞できなかったのが99年のマルティネス(右)。受賞したロドリゲス(左)も素晴らしい成績だったが、それ以上にマルティネスの成績が傑出していた。(C)Getty Images

 2021年のア・リーグMVPは大谷翔平(エンジェルス)で決まり。投票結果が発表されるのは現地時間11月18日だが、すでにそのような意見が大勢を占めている。

 投打二刀流をハイレベルで実現するという、過去100年間で誰も見たことがなかった偉業は、それほどまでに強い印象を与えたのだ。前半戦だけで33本塁打、OPS1.062を記録したバッティングは後半戦に入って調子を落としたが、その代わりに投手としての安定感が増している。まさしくこれこそが二刀流の効用で、今シーズンにとどまらず、「メジャー史上最高のシーズンなのでは?」という声さえも出ている。

 野球殿堂入りを別にすれば、MVPは選手にとって最高の栄誉であるのは間違いない。だが、その歴史は意外なほど浅い。

 メジャーリーグは1876年に始まったが、その年に一番活躍した選手を表彰する習慣は、不思議なことに長い間存在しなかった。1910年になって、デトロイトの高級自動車メーカーだったチャルマーズが、両リーグの首位打者に対し、自動車を贈呈することを決定した。
 
 だがア・リーグでは、嫌われ者のタイ・カッブに車を与えたくなかったセントルイス・ブラウンズの監督ジャック・オコナーが、カッブと首位打者を争っていたナップ・ラジョイに安打を稼がせようと、閉幕日の対戦で三塁手に深く守るように指示した。

 その結果、ラジョイは三塁側へのセーフティバントによってダブルヘッダーで8安打を量産し、カッブを逆転した(その後、リーグ会長の裁定により、ラジョイではなくカッブが首位打者と認められ、賞品は両者に与えられた)。このような醜態が再発しないよう、翌11年からチャルマーズ賞は首位打者ではなく、新聞記者による投票で「最も価値のある働きをした選手」に贈られることになり、これがMVPの起源となった。

 ただし、同賞は15年限りで廃止。22年になってア・リーグが同様の趣旨である「リーグ賞」を創設し、24年からナ・リーグも追随したが、30年に消滅した。現行のMVPは31年から再開されたもので、MLB公式サイトが記載しているのも31年以降の受賞者のみ。その歴史は、まだ100年にも満たないのだ。

 また、30年以前のア・リーグMVPは一度しか受賞できず、監督を兼任する者も対象外という奇妙な規定があった(ナ・リーグはその限りではなかった)。そのため23 年にすでに受賞していたベーブ・ルースは、新記録となる60本塁打を放った27年に受賞できなかったばかりか、投票でも1票も得ていない(受賞したのはチームメイトのルー・ゲーリッグ)。
 

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