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プロ野球

【玉木正之のベースボール今昔物語】「カン(勘)ピューター野球」から「ビッグデータ・ベースボール」へ。AIの分析に基づく情報を武器に戦う大谷翔平は“AIのアバター”なのか?<SLUGGER>

玉木正之

2024.11.21

大谷がタブレットで相手のデータを確認する光景はもはやおなじみ。ビッグデータ・ベースボールはMLBのトレンドだが、かつては……。(C)Getty Images

大谷がタブレットで相手のデータを確認する光景はもはやおなじみ。ビッグデータ・ベースボールはMLBのトレンドだが、かつては……。(C)Getty Images

 最近のメジャーリーグは「野球のやり方」が大きく変わってきた……と思っている人は少なくないのではないだろうか。

 根っからのMLBファンだけではない。大谷翔平(ドジャース)の大活躍でメジャー中継を見始めた人も、大谷をはじめとする選手ちが試合中にタブレットを覗き込む機会の多いことに気付いたはずだ。打席に入ろうとした時に相手チームがピッチャーを交代すれば、一度ベンチに引き返して通訳やチームメイトの差し出すタブレットを確認するような姿も見られる。

 もちろんタブレットには、相手投手のデータが示されている。初球の球種は? ファストボール(速球)を投げる確率は? 変化球は? コースは? 決め球は? そのコースは? さまざまな確率が、過去の多くのデータから割り出されている……というだけではない。それでは過去にスコアラーたちが集めてきたデータとさほど変わらないからだ。

 最近の「野球のやり方」では、相手投手の投げるすべてのデータ、それに対応したバッターの打撃の結果のすべてを集め、それをAIが分析。このピッチャーの投げる初球にはどのように対応すればよいか? 初球がボールだったり、あるいはファウルで2球目に移った場合は、どんな球種とコースを待てばいいのか?……といった「指示」まで与えてくれるのだ。

 いわば技術革新の賜物だが、ここまで進化する以前の野球はもちろんAIに頼らず、各選手がが自分で考えていた。かつて監督としてデータ野球を実践した野村克也氏に、現役選手時代にホームラン打者として大活躍したことについて、「バッティングの極意」を聞いたことがある。

 彼は「分かりやすく言えば」と前置きしたうえで、「ヤマハリ(山張り)ですよ」と断言した。
 
「ピッチャーは140キロを超す速さでボールを投げる。打者との距離は18m(正確には18.44m)。100分の1秒以内に飛んでくるボールを見て、コースや球種を判断して打ち返すなんてことは不可能で、投球が内角に来るか外角に来るかを決めて待つ。または速球か変化球かを決めて待つ。わかりやすく言えば“ヤマを張る”わけです。その“ヤマ”は経験によって身に付くもので、王(貞治)だって長嶋(茂雄)だって、内角か外角か、速球か変化球か、どっちかに備えてバットを振っていたはずですよ」

 長嶋は現役時代のバッティングも、監督時代の采配も「カン(勘)ピュータ」などと言われたが、それは「経験の蓄積」、今の言葉で言えば「ビッグデータ」を自ら身に付けていたと言えるものだったに違いない。

 その「勘」については、V9巨人の大監督川上哲治氏も、次のように語っていた。

「勝負勘とか、打撃勘とか、野球は"勘"を働かせることが多い。"勘"とは"甚だしい力"のこと。"ヤマカン”、"当てずっぽう"ではなく、訓練で身に付ける"甚だしい力”のことです」

 そういえばV9巨人で川上監督を支えた名参謀・牧野茂氏も、ヘッドコーチ時代には三塁コーチャーズボックスから、相手チームの投手が振りかぶってモーションを始めた瞬間、大声でバッターに向かって「真っ直ぐ!」「ストレート!」などと何度も叫んでいた。牧野氏に、「あれはキャッチャーのサインを盗んでいたのですか?」と訊いたことがあった。すると牧野氏は、笑いながらこう答えた。

「相手チームも、そう疑ってくれると嬉しいね。でも、ピッチャーの投げる球種ってのは5割以上がストレート。それだけのことだよ」

 牧野氏の言葉が、100%本音なのかどうかは怪しい(笑)。だが、牧野氏と評論家時代に深く交流させてもらった私は、彼から野球について多くを教わった。藤田巨人のヘッドコーチを務めていた時には、宮崎キャンプで面白い出来事に立ち会った。
 
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