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MLB

史上初3度目の満票&DHでの受賞、史上2人目の両リーグ戴冠...「不可能を可能にする」大谷翔平の2024年MVP獲得<SLUGGER>

出野哲也

2024.11.27

ドジャース1年目で世界一となり、3度目のMVPも受賞した大谷。本人にとってはメジャー7年目で最高のシーズンだったのではないか。(C)Getty Images

ドジャース1年目で世界一となり、3度目のMVPも受賞した大谷。本人にとってはメジャー7年目で最高のシーズンだったのではないか。(C)Getty Images

 ドジャースのクレイトン・カーショウは、2024年のナショナル・リーグMVPのプレゼンターとして最適の人物だった。なぜなら彼は、受賞者が連日のように信じ難いパフォーマンスを繰り広げるのを最前列で目撃していたからだ。「MVPは私のチームメイトです」として彼が紹介したのは、もちろん大谷翔平であった。

 大谷がまず口にした感想は「ドジャースの代表としてもらったと思っている」であり「一番誇りに思えることは何か」との質問に対しても「ワールドシリーズで勝てたというところが、一番目指していたところ」と答えた。過去2度の受賞では、自身の活躍がチームの成績に結びつかないもどかしさを抱えていた。だが3度目の今回は、世界一の感激を味わい、心置きなく栄誉を手にできた。

 ESPNのブラッドフォード・ドゥーリトル記者は「不可能に思えることをルーティンのようにこなしてしまう。(SF作家の)フィリップ・K・ディックですら、彼がこれから成し遂げることを想像するのは難しいだろう」と記していたが、受賞に際してはそれほど驚きの声は多く上がらなかった。同僚ウォーカー・ビューラーの感想は「Duh(当たり前だろ)」の一言だけ。大谷が凄くないというわけではなく、その活躍はもはやいちいち驚くには当たらないと見られているのだ。

 それでもなお、今回のMVPは様々な意味で歴史的だった。3度目の受賞は、バリー・ボンズの7度に次いで史上2位タイ。アメリカン、ナショナル両リーグでの受賞はフランク・ロビンソン(1961年レッズ、66年オリオールズ)に次いで2人目である。異なるリーグでの2年連続受賞は初、そして指名打者(DH)の受賞も史上初であった。

 これまで多くの強打者がDHで活躍したにもかかわらず、誰もMVPになれなかったのは、打撃オンリーで守備につくことがない、すなわち守備面での貢献がゼロだからであった。同じ理由で、今季も大谷のMVPに難色を示す人たちもいた。次点に終わったフランシスコ・リンドーア(メッツ)の地元ニューヨークのメディアやファンはその代表だった。
 けれども、結局は投票者全員が1位に大谷の名を記した。54本塁打、130打点の二冠に加え、打率.310も最終日まで首位打者の可能性を残していた。さらには59盗塁も決め、前人未踏の50本塁打・50盗塁を成し遂げたのだから、受賞できない理由はない。複数回の満票受賞は、MLBに限らず北米4大スポーツで他に例がないという。

 とはいえ、50-50達成だけなら満票ではなかったかもしれない。決め手になったのは、勝利貢献度を測る総合指標WARもリーグトップであったことだ(bWAR=ベースボール・リファレンス版/9.2、fWAR=ファングラフス版/9.0)。リンドーアMVP説も、一時期fWARで大谷をリードしていたのが根拠になっていた。

 だが、最終的にはリンドーアに大差をつけ、守備につかずとも、打撃だけでリーグ最高の価値を生み出した。WARがない時代だったら、どれだけ素晴らしい打撃成績でも「守備につかないマイナス」は明確な数字として示されなかった。すべての選手を同一の基準で評価できるWARが浸透しているからこそ、DHでも大谷は満票を得たのである。

 来季はサイ・ヤング賞とMVPの両取りを目指すのか、と訊かれて「そうなれたらもちろん最高」と答えた大谷。肘の手術からの復帰1年目は、通常はあまり調子が上がらず、首脳陣も無理をさせないので、実際にはサイ・ヤング賞は難しいと思われる。だが投手として並の成績でも、今年のように打ちまくったとしたら......どんな困難なことでも実現してきた大谷なら、来年もまた喜びの声を聞かせてくれるのではないだろうか。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

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