「部員40人には40通りの育成法がある」(大阪桐蔭高・西谷浩一監督)
2012年と18年に2度の春夏連覇を果たすなど、チームを7回も全国の頂点に導いた大阪桐蔭高の西谷浩一監督。だが、彼が"名将"と称されるゆえんは、甲子園での優勝回数や出場回数だけでなく、教え子にあまたのプロ野球選手を輩出しているからでもある。
今となっては信じ難いことだが、かつてはその手腕を疑問視する向きもあった。西谷監督率いるチームが甲子園に出場したのは05年が初めてだが、それまでにも中村剛也(西武)や岩田稔(阪神)ら好素材をそろえていながら地区予選で敗退するなど、いまひとつ勝ちきれないところがあったためだ。
ただ、そんな時期が長く続いても、西谷監督は自らの指導法に疑問を持たなかった。チームは勝てなくても、選手を育てることができているという自負があったからだ。
「僕が大阪桐蔭に来た時は、高校までで終わっている選手が結構いたんですよね。それだけじゃいけないということで、大学や社会人野球を見せて興味を持たせるようにしたんですよ。それで選手の意識は変わりました」
甲子園に行けなくても、その先にも野球がある。そう信じ込ませることで、選手たちは技術を磨くことに真摯に打ち込み、やがては中村のようにプロで活躍する選手が出るようになった。それが今の大阪桐蔭の礎となっている。
西谷監督の指導法で特筆すべきは、一人一人に対する時間のかけ方だ。日本の野球では、どの選手にも一律に同じ練習を課すことが往々にしてあるが、西谷監督は、たとえ練習メニューが同じでも、選手によって目的が異なることをいつも意識してきた。
「インフォームド・コンセントみたいなもの。『これからどうやって治療しますか?』ではないですけど、『どのような方針で進んでいきますか?』というような話を部員一人ひとりとするんです」
目指す先がどこにあるのか、という問いから始まり、どのような技術が足りないのか、そのために必要な練習は何なのかをまず提示する。それから練習に取り組ませる。全員を同じやり方で指導をすることはないという。
「『今日はこういう練習をしよう』『成果はどうだった?』『次はこれをやってみよう』と、お医者さんが患者さんを診るように一人ひとりに手をかけていくんです」
西谷監督は、個性を伸ばす時期と、チームとしてまとまって勝ちに行く時期とをはっきり分けている。大会前には当然チームプレーを第一に考えて練習しなければいけないが、大会が終わると一端リセットされるのだ。
「オフの時期は『チームワークは必要ない』と言っています。もっと言えば、選手同士が『仲悪くなれ』と。己のことだけを考えればいい。自分の目標達成のために、何が足らないかを見つめて取り組むということです」
こうすることで、選手は自分なりのビジョンを持って練習に取り組むようになる。その効果は、ただ漫然とこなすだけの練習とは段違いだ。
現在、大阪桐蔭出身の現役プロ野球選手は21人。これは出身高校別では最多の数字だ。その中には森友哉(西武)や平田良介(中日)、中田翔(日本ハム)、浅村栄斗(楽天)ら、チームの中核として活躍している選手が何人もいる。彼らがプロでも主力選手になれたのは、西谷監督の指導が礎となっているからに他ならない。
勝利至上主義が蔓延し、選手が顧みられていないと言われる現在の高校野球において、個々の選手を重んじる西谷監督は異色の指導者かもしれない。だがそれだけに、彼の率いる大阪桐蔭が"最強校"として君臨している事実はなんとも痛快だ。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
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2012年と18年に2度の春夏連覇を果たすなど、チームを7回も全国の頂点に導いた大阪桐蔭高の西谷浩一監督。だが、彼が"名将"と称されるゆえんは、甲子園での優勝回数や出場回数だけでなく、教え子にあまたのプロ野球選手を輩出しているからでもある。
今となっては信じ難いことだが、かつてはその手腕を疑問視する向きもあった。西谷監督率いるチームが甲子園に出場したのは05年が初めてだが、それまでにも中村剛也(西武)や岩田稔(阪神)ら好素材をそろえていながら地区予選で敗退するなど、いまひとつ勝ちきれないところがあったためだ。
ただ、そんな時期が長く続いても、西谷監督は自らの指導法に疑問を持たなかった。チームは勝てなくても、選手を育てることができているという自負があったからだ。
「僕が大阪桐蔭に来た時は、高校までで終わっている選手が結構いたんですよね。それだけじゃいけないということで、大学や社会人野球を見せて興味を持たせるようにしたんですよ。それで選手の意識は変わりました」
甲子園に行けなくても、その先にも野球がある。そう信じ込ませることで、選手たちは技術を磨くことに真摯に打ち込み、やがては中村のようにプロで活躍する選手が出るようになった。それが今の大阪桐蔭の礎となっている。
西谷監督の指導法で特筆すべきは、一人一人に対する時間のかけ方だ。日本の野球では、どの選手にも一律に同じ練習を課すことが往々にしてあるが、西谷監督は、たとえ練習メニューが同じでも、選手によって目的が異なることをいつも意識してきた。
「インフォームド・コンセントみたいなもの。『これからどうやって治療しますか?』ではないですけど、『どのような方針で進んでいきますか?』というような話を部員一人ひとりとするんです」
目指す先がどこにあるのか、という問いから始まり、どのような技術が足りないのか、そのために必要な練習は何なのかをまず提示する。それから練習に取り組ませる。全員を同じやり方で指導をすることはないという。
「『今日はこういう練習をしよう』『成果はどうだった?』『次はこれをやってみよう』と、お医者さんが患者さんを診るように一人ひとりに手をかけていくんです」
西谷監督は、個性を伸ばす時期と、チームとしてまとまって勝ちに行く時期とをはっきり分けている。大会前には当然チームプレーを第一に考えて練習しなければいけないが、大会が終わると一端リセットされるのだ。
「オフの時期は『チームワークは必要ない』と言っています。もっと言えば、選手同士が『仲悪くなれ』と。己のことだけを考えればいい。自分の目標達成のために、何が足らないかを見つめて取り組むということです」
こうすることで、選手は自分なりのビジョンを持って練習に取り組むようになる。その効果は、ただ漫然とこなすだけの練習とは段違いだ。
現在、大阪桐蔭出身の現役プロ野球選手は21人。これは出身高校別では最多の数字だ。その中には森友哉(西武)や平田良介(中日)、中田翔(日本ハム)、浅村栄斗(楽天)ら、チームの中核として活躍している選手が何人もいる。彼らがプロでも主力選手になれたのは、西谷監督の指導が礎となっているからに他ならない。
勝利至上主義が蔓延し、選手が顧みられていないと言われる現在の高校野球において、個々の選手を重んじる西谷監督は異色の指導者かもしれない。だがそれだけに、彼の率いる大阪桐蔭が"最強校"として君臨している事実はなんとも痛快だ。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
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