「あいつに回したくないと思わせた時点で、4番の役割を果たしているかなと思います」(広島・鈴木誠也)
一度だけ、鈴木のロングインタビューに成功したことがある。彼が初めてWBC日本代表に選ばれた2017年のことで、チームで4番を務めるようになったのもこの年からだ。だが、鈴木は終盤に右足首骨折の大怪我を負い、インタビューはそのリハビリ中に実現した。そこで彼は「楽しいですよ、4番は」と言い切った。
「いろんな投手と対戦できるので、去年よりも自分が絶対に成長できていると思える瞬間です。今まではいい投手に数多く立てていなかったのが、今年は去年よりも対戦が増えた。4番を打つことで自分が成長できた自負はあります」
4番になると、いろんなことが変化するという。例えば、投手の攻め方。鈴木によれば、「当ててもいい」というくらい気持ちがこもった厳しいインコース攻めは、4番でしか体験できないものだという。
また、相手投手の起用法にも変化が見られた。「4番を打つ前だと、チャンスの時に僕のところまでは同じ投手が来て、その後で投手が替わるということが多かった。それが4番になると、僕を迎えたところで投手が代わるんです。自分の想定としては、それまで投げていた投手をイメージしているので、そこで急に代わるのはキツかったですね。それもまた、相性が良くない投手だったりすることもあって『うわあ』って思うんです」
こうした体験を通じて、鈴木は「投手は4番に対して、1打席1打席を本気で抑えにくる。そこにハイレベルな戦いがある」ことを痛感した。普通ならこれを「4番の重責」と捉えるところだが、鈴木は「成長の糧」と捉えた。まるで向上心の塊のような男。それが鈴木である。
彼の話を聞いていると、いかにして自分が大きくなれるかばかりが口をついて出てくる。同じ1994年生まれの怪物・大谷翔平(エンジェルス)について話が及んだ時も、こんなことを口にしている。
「一緒にいればいいことあるかなと思って、侍ジャパンで一緒になった時は部屋で話したりしましたけど、(大谷は)自分のやるべきことを欠かさないです。トレーニングや食事とか。すべて計算してやっています。やるべきことをちゃんとやっているから、あれだけの選手になるよな、と。あの体であの取り組み方なら、僕がどれだけやっても追いつけない。意識の高さが違いますね」。
侍ジャパンでは、大谷以外にも「こういうところに来る選手はすごい考え方を持っているな」と感心することも多いのだという。プロとして実績を積み重ねても、他の選手から刺激を受けて、さらに自身の能力を高めようとしているのだ。この向上心が、「あいつには回したくない」と思わせる“球界最強打者”を生んだ。
昨シーズン、鈴木は初タイトルとなる首位打者を獲得しただけでなく、OPSでも両リーグトップを記録。シーズン終了後に参加したプレミア12ではMVPに輝いた。あのインタビューから3年。今や世界に恐れられるほどの打者となった鈴木が、さらなる高みへ足を運んだ姿を見てみたいと思うのは、筆者だけではないはずだ。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
【カープキャンプPHOTO】第1クール最終日。シート打撃では鈴木、小園、正随がホームラン!
一度だけ、鈴木のロングインタビューに成功したことがある。彼が初めてWBC日本代表に選ばれた2017年のことで、チームで4番を務めるようになったのもこの年からだ。だが、鈴木は終盤に右足首骨折の大怪我を負い、インタビューはそのリハビリ中に実現した。そこで彼は「楽しいですよ、4番は」と言い切った。
「いろんな投手と対戦できるので、去年よりも自分が絶対に成長できていると思える瞬間です。今まではいい投手に数多く立てていなかったのが、今年は去年よりも対戦が増えた。4番を打つことで自分が成長できた自負はあります」
4番になると、いろんなことが変化するという。例えば、投手の攻め方。鈴木によれば、「当ててもいい」というくらい気持ちがこもった厳しいインコース攻めは、4番でしか体験できないものだという。
また、相手投手の起用法にも変化が見られた。「4番を打つ前だと、チャンスの時に僕のところまでは同じ投手が来て、その後で投手が替わるということが多かった。それが4番になると、僕を迎えたところで投手が代わるんです。自分の想定としては、それまで投げていた投手をイメージしているので、そこで急に代わるのはキツかったですね。それもまた、相性が良くない投手だったりすることもあって『うわあ』って思うんです」
こうした体験を通じて、鈴木は「投手は4番に対して、1打席1打席を本気で抑えにくる。そこにハイレベルな戦いがある」ことを痛感した。普通ならこれを「4番の重責」と捉えるところだが、鈴木は「成長の糧」と捉えた。まるで向上心の塊のような男。それが鈴木である。
彼の話を聞いていると、いかにして自分が大きくなれるかばかりが口をついて出てくる。同じ1994年生まれの怪物・大谷翔平(エンジェルス)について話が及んだ時も、こんなことを口にしている。
「一緒にいればいいことあるかなと思って、侍ジャパンで一緒になった時は部屋で話したりしましたけど、(大谷は)自分のやるべきことを欠かさないです。トレーニングや食事とか。すべて計算してやっています。やるべきことをちゃんとやっているから、あれだけの選手になるよな、と。あの体であの取り組み方なら、僕がどれだけやっても追いつけない。意識の高さが違いますね」。
侍ジャパンでは、大谷以外にも「こういうところに来る選手はすごい考え方を持っているな」と感心することも多いのだという。プロとして実績を積み重ねても、他の選手から刺激を受けて、さらに自身の能力を高めようとしているのだ。この向上心が、「あいつには回したくない」と思わせる“球界最強打者”を生んだ。
昨シーズン、鈴木は初タイトルとなる首位打者を獲得しただけでなく、OPSでも両リーグトップを記録。シーズン終了後に参加したプレミア12ではMVPに輝いた。あのインタビューから3年。今や世界に恐れられるほどの打者となった鈴木が、さらなる高みへ足を運んだ姿を見てみたいと思うのは、筆者だけではないはずだ。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
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