8月9日にアスレティックス対アストロズ戦で起きた乱闘は大きな話題を呼んだ。新型コロナウイルス感染予防のため身体接触を最小限にとどめなけらならないにもかかわらず、両軍入り乱れての騒動に発展したからだ。11日、MLB機構は処分を発表し、ラモン・ローレアーノ(アスレティックス)に出場停止6試合、アレックス・シントロン打撃コーチ(アストロズ)には職務停止20試合を科した。ローレアーノは異議を申し立て、シントロンは処分をそのまま受け入れた。
問題の試合で、ローレアーノは2打席続けて死球を受けた。2日前の同じカードでも当てられているので、アストロズ3連戦で3度目の死球となった。相手の捕手や審判たちの制止もあり、ローレアーノは文句を言いながらも一塁へたどり着いた。そのままなら乱闘は起きなかっただろう。死球→乱闘と報じているのは、正確ではない。引き金となったのは、一塁側のダグアウトからシントロンが発した言葉だ。それに激高したローレアーノが突進し、乱闘が始まった。
どうやら、シントロンはローレアーノの母親を侮辱したらしい。シントロン自身は否定しているが、ローレアーノは「俺の母親について言ってはいけないこと」をスペイン語で言ったと主張している。
ローレアーノの出場停止6試合は、過去の処分と比べてもそう長くはない。ちなみに、7月28日のアストロズ戦で危険球を連発したジョー・ケリー(ドジャース)は、8試合の出場停止を科された(その後、5試合に削減)。一方、シントロンの職務停止20試合は異例の長さだ。USAトゥディのボブ・ナイテンゲール記者は「コーチでは史上最長だと思われる」とツイートしている。
ESPNによると、過去20年でコーチに下された最も重い処分は、00年4月に乱闘でパンチを繰り出したタイガースのホアン・サミュエル一塁コーチが科された15試合の職務停止だという。選手も含めると、フィールド上の行動による20試合の出場・職務停止は05年6月のケニー・ロジャース以来だ。当時、レンジャーズの先発投手だったロジャースは、試合前にTVカメラを向けたクルーに暴力を振るい、カメラを叩き落として蹴り飛ばした。ちなみに、今シーズンは60試合しかなく、通常の162試合に換算すると、シントロンの処分は54試合に相当する。
MLB機構がシントロンに重い処分を科した理由は、もうお分かりだろう。コーチという指導的な立場にありながら、シントロンはソーシャル・ディスタンスをぶち壊す事態を誘発させた。新型コロナウイルスが蔓延し、球界においても集団感染が発生している状況において、許されることではない。なお、ローレアーノに向かって言葉を発した時、シントロンはマスクをアゴまでずらしていた。マスクをきちんとつけていれば、飛沫だけでなく、罵倒の言葉がローレアーノに届くのも防げたかもしれない。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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問題の試合で、ローレアーノは2打席続けて死球を受けた。2日前の同じカードでも当てられているので、アストロズ3連戦で3度目の死球となった。相手の捕手や審判たちの制止もあり、ローレアーノは文句を言いながらも一塁へたどり着いた。そのままなら乱闘は起きなかっただろう。死球→乱闘と報じているのは、正確ではない。引き金となったのは、一塁側のダグアウトからシントロンが発した言葉だ。それに激高したローレアーノが突進し、乱闘が始まった。
どうやら、シントロンはローレアーノの母親を侮辱したらしい。シントロン自身は否定しているが、ローレアーノは「俺の母親について言ってはいけないこと」をスペイン語で言ったと主張している。
ローレアーノの出場停止6試合は、過去の処分と比べてもそう長くはない。ちなみに、7月28日のアストロズ戦で危険球を連発したジョー・ケリー(ドジャース)は、8試合の出場停止を科された(その後、5試合に削減)。一方、シントロンの職務停止20試合は異例の長さだ。USAトゥディのボブ・ナイテンゲール記者は「コーチでは史上最長だと思われる」とツイートしている。
ESPNによると、過去20年でコーチに下された最も重い処分は、00年4月に乱闘でパンチを繰り出したタイガースのホアン・サミュエル一塁コーチが科された15試合の職務停止だという。選手も含めると、フィールド上の行動による20試合の出場・職務停止は05年6月のケニー・ロジャース以来だ。当時、レンジャーズの先発投手だったロジャースは、試合前にTVカメラを向けたクルーに暴力を振るい、カメラを叩き落として蹴り飛ばした。ちなみに、今シーズンは60試合しかなく、通常の162試合に換算すると、シントロンの処分は54試合に相当する。
MLB機構がシントロンに重い処分を科した理由は、もうお分かりだろう。コーチという指導的な立場にありながら、シントロンはソーシャル・ディスタンスをぶち壊す事態を誘発させた。新型コロナウイルスが蔓延し、球界においても集団感染が発生している状況において、許されることではない。なお、ローレアーノに向かって言葉を発した時、シントロンはマスクをアゴまでずらしていた。マスクをきちんとつけていれば、飛沫だけでなく、罵倒の言葉がローレアーノに届くのも防げたかもしれない。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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