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MLB

マイナーでくすぶる選手たちへの救いの手。MLBの『ルール5ドラフト』ってどんな制度?

宇根夏樹

2020.12.09

13年にダイヤモンドバックスに入団してから5年間、メジャーに上がれなかったケラーだが、17年にルール5ドラフトで指名されてから開花した。(C)Getty Images

13年にダイヤモンドバックスに入団してから5年間、メジャーに上がれなかったケラーだが、17年にルール5ドラフトで指名されてから開花した。(C)Getty Images

 12月10日、ルール5ドラフトが行われる。これは、球団による選手の“飼い殺し”を防ぐための制度で、アマチュア選手ではなく他球団の選手を指名するものだ。名称は、MLB規則の第5条に記されていることに由来する。日本プロ野球でも同じ趣旨の制度が検討されていて、『ブレークスルードラフト』の仮称が付けられている。なお、ルール5ドラフトには、メジャーリーグ・フェイズと3Aフェイズの2段階があるが、ここでは分かりやすくするためにメジャーリーグ・フェイズに限定して説明する。

 指名対象はプロテクト期限日(今年は11月20日)の時点で40人ロースターに入っていないマイナー契約の選手だが、年齢制限がある。18歳以下で契約した場合は入団から5年、19歳以上は4年が経っていなければ指名することできない(メジャーデビューしているかどうかは問われない)。

 また、指名した後にも制限があり、獲得した球団は、選手が元々在籍していた球団に10万ドルを払う(選手を元の球団へ返却することもでき、その場合は5万ドルが戻ってくる)。加えて、獲得球団は指名した選手を翌年のシーズンを通じて25人のアクティブ・ロースターに入れておく必要がある。そのため、獲得する側も何でもかんでもというわけにはいかない。メジャーリーグの戦力としてある程度計算できそうな選手を選ぶことになる。
 
 また、指名されてすぐにトレードされる選手もいる。ルール5ドラフトはアマチュアドラフトと同じく完全ウェーバー制なので、これは主に指名順が遅い球団の戦略だ。自チームよりさらに上の指名権を持ち、なおかつその選手を必要としない球団と事前に交渉し、トレードを前提として指名してもらう。そうすることにより、他球団にさらわれるのを阻止するのだ。

 ルール5ドラフトで指名されても、多くの選手は活躍できないままキャリアを終えるが、、少数ながら大きく羽ばたいた選手もいる。1954年にドジャースからパイレーツへ移ったロベルト・クレメンテは、そこから3000安打を打ち、ゴールドグラブを12度受賞。史上最高の右翼手としてその名を残すまでになった。ヨハン・サンタナは99年にアストロズからマーリンズを経てツインズへ移籍し、04年と06年にサイ・ヤング賞を手にした。薬物とアルコールの依存症から立ち直り、10年にレンジャーズでMVPを受賞したジョシュ・ハミルトンも、06年のルール5ドラフトでレッズから指名を受けて出場機会をつかんだことが復活のきっかけになった。

 直近の成功例は、17年にダイヤモンドバックスからレッズを経てロイヤルズへ移ったブラッド・ケラーだ。18年は救援21登板で防御率2.01を残した後、ローテーションに入って20先発で防御率3.28とエース級に成長。今季は惜しくも規定投球回には届かなかったが、防御率2.47&チームトップの5勝と投手陣を牽引した。マイナーでくすぶる選手に、メジャーの夢舞台への切符を与えるルール5ドラフト。将来NPBで『ブレークスルードラフト』が実際に導入された暁にも、同様の役割を期待したい。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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