先日、フィリーズの編成責任者に就任したデーブ・ドンブロウスキは、“優勝請負人”と呼ぶのがふさわしい。過去にGM、あるいは編成総責任者を務めた4球団のうち、1球団目のエクスポズ(現ナショナルズ)を除く3球団に栄光をもたらしてきた。マーリンズでは球団史上初の世界一(1997年)、タイガースではリーグ優勝2度(2006年と12年)、レッドソックスでもワールドシリーズ優勝(18年)を達成。異なる3球団をワールドシリーズまで導いた編成のトップはMLB史上、他にいない。
19年9月にレッドソックスの編成総責任者を解任された後、ドンブロウスキはそれまでとは少し違う道を歩み始めていた。テネシー州ナッシュビルにメジャー球団を誘致しようとしているグループにアドバイザー兼コンサルタントとして加わり、住まいもナッシュビルへ移した。しかも先月、エンジェルスの新GMに就任するという噂が出た際は、このオフに球団の編成責任者となるつもりはないと明言していた。
心変わりの理由を、ドンブロウスキ本人は「新型コロナウイルスの感染拡大で、球団誘致が思うように進んでいないから」としているが、フィリーズが申し出た4年2000万ドル(約20億6500万円)の“大型契約”も、要因だったはず。これは、編成責任者の契約としてはかなりの高額だ。
ドンブロウスキ最大の得意技は大物獲得。タイガースではイバン・ロドリゲスやミゲル・カブレラ、レッドソックス時代では、クレイグ・キンブレル、クリス・セール、JD・マルティネスといったスター選手をFAやトレードで手に入れ、チーム強化につなげた。
ただ、ドンブロウスキがフィリーズでも同じように大物選手を次々に手に入れられるかと言えば、それはまた別の話だ。
AP通信によれば、フィリーズは今シーズンが無観客開催だったことで約1億4500万ドル(約149億円)の損失を被ったという。先月下旬には80人の球団職員を解雇している。ドンブロウスキ自身も年俸総額について「前年と同額は期待していない」と語っており、補強どころかFAになった球界ナンバーワン捕手JT・リアルミュートとの再契約すら果たせない可能性もある。
大型トレードも、現在のフィリーズでは敢行しにくい。チームのマイナー組織はお世辞にも充実しているとは言えず、MLB.comのファーム・ランキングでは30球団中23位。大物を釣ろうにも、交換要員となる若手有望株が不足しているのだ。
ドンブロウスキは「『再編』であって『再建』ではない。このチームにはいい選手が揃っている」と語り、来季の躍進に自信を持っているようだが、そのためには昨季メジャーワーストの救援防御率7.06に終わったリリーフ陣の整備が不可欠。さらに、リアルミュートが流出した場合には、彼に代わる正捕手も必要だ。
これらの問題をどうやって解決するのか、“優勝請負人”の手腕が注目されるところだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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19年9月にレッドソックスの編成総責任者を解任された後、ドンブロウスキはそれまでとは少し違う道を歩み始めていた。テネシー州ナッシュビルにメジャー球団を誘致しようとしているグループにアドバイザー兼コンサルタントとして加わり、住まいもナッシュビルへ移した。しかも先月、エンジェルスの新GMに就任するという噂が出た際は、このオフに球団の編成責任者となるつもりはないと明言していた。
心変わりの理由を、ドンブロウスキ本人は「新型コロナウイルスの感染拡大で、球団誘致が思うように進んでいないから」としているが、フィリーズが申し出た4年2000万ドル(約20億6500万円)の“大型契約”も、要因だったはず。これは、編成責任者の契約としてはかなりの高額だ。
ドンブロウスキ最大の得意技は大物獲得。タイガースではイバン・ロドリゲスやミゲル・カブレラ、レッドソックス時代では、クレイグ・キンブレル、クリス・セール、JD・マルティネスといったスター選手をFAやトレードで手に入れ、チーム強化につなげた。
ただ、ドンブロウスキがフィリーズでも同じように大物選手を次々に手に入れられるかと言えば、それはまた別の話だ。
AP通信によれば、フィリーズは今シーズンが無観客開催だったことで約1億4500万ドル(約149億円)の損失を被ったという。先月下旬には80人の球団職員を解雇している。ドンブロウスキ自身も年俸総額について「前年と同額は期待していない」と語っており、補強どころかFAになった球界ナンバーワン捕手JT・リアルミュートとの再契約すら果たせない可能性もある。
大型トレードも、現在のフィリーズでは敢行しにくい。チームのマイナー組織はお世辞にも充実しているとは言えず、MLB.comのファーム・ランキングでは30球団中23位。大物を釣ろうにも、交換要員となる若手有望株が不足しているのだ。
ドンブロウスキは「『再編』であって『再建』ではない。このチームにはいい選手が揃っている」と語り、来季の躍進に自信を持っているようだが、そのためには昨季メジャーワーストの救援防御率7.06に終わったリリーフ陣の整備が不可欠。さらに、リアルミュートが流出した場合には、彼に代わる正捕手も必要だ。
これらの問題をどうやって解決するのか、“優勝請負人”の手腕が注目されるところだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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