2019年後半戦のダルビッシュは、向かうところ敵なしの投球だった。今年も、その再現ができれば、「日本人投手として初のサイ・ヤング賞も夢ではないのでは?」と思われていた。
そして、実際にその夢は限りなく実現に近いところまで行った。日本人初の最多勝のタイトルを獲得し、実際の投票結果は意外な大差がついたとはいえ、サイ・ヤング賞に輝いたトレバー・バウアー(レッズ)との成績的な差はほとんどなかったと、投票者の多くが証言している。
開幕前は新型コロナウイルスの感染拡大状況を憂慮し、シーズン参加を見送る可能性も示唆していたが、「腹をくくって」参加を決意。初戦こそ4回3失点といまひとつだったものの、その後の7試合で日本人最長の7連勝を記録しただけでなく、46回で5失点、58奪三振で8四球、被本塁打は3本だけとまさに完璧な投球を披露した。
8月13日のブルワーズ戦と9月4日のカーディナルス戦はいずれも7回1安打11奪三振。その後、3試合続けて勝ちがつかなかったが、最終登板となった25日のホワイトソックス戦を7回無失点で締め、リーグ単独最多の8勝目。最多勝のタイトルを確実なものとした。
ダルビッシュ本人は今季のベストピッチをカッターだと振り返っている。実際、18年までカッターの投球割合は10%台半ばだったのが、今季は43.7%まで増えており、頼りにしていたことが分かる。その球種で取ったアウトやストライクに基づき、どれだけ失点を防いだかを示す「球種別得点(Run Value)」ではリーグ2位。カッターで効果的にアウトを取れるようになったおかげで四球も減少し(与四球率1.66は自己ベスト)、球数がかさんで早い回でマウンドを下りることもなくなった。
かつて最大の武器だったスライダーの球種別得点は7位、スプリッターも同じく7位だったあたりは「11球種を操る男」の面目躍如だが、見逃せないのは4シームの平均速度95.5マイル(約153.7キロ)も過去最速だった点。35歳にして、4シームも変化球も自己最高のレベルに達していたのは驚異的であり、技術・体力の両面でこれまで積み重ねてきたさまざまなアプローチが正解だったと証明している。
トレーニングやコンディショニングへの関心の高さ、球種や投球スタイルに対する飽くなき探究心を考えれば、30代後半を迎えても急激に衰える要素は少ない。来季も引き続き素晴らしいピッチングを披露し、サイ・ヤング賞候補に名を連ねると期待して良さそうだ。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
【PHOTO】ダルビッシュ、大谷、マエケン!メジャーリーグで活躍する日本人選手を一挙紹介!
そして、実際にその夢は限りなく実現に近いところまで行った。日本人初の最多勝のタイトルを獲得し、実際の投票結果は意外な大差がついたとはいえ、サイ・ヤング賞に輝いたトレバー・バウアー(レッズ)との成績的な差はほとんどなかったと、投票者の多くが証言している。
開幕前は新型コロナウイルスの感染拡大状況を憂慮し、シーズン参加を見送る可能性も示唆していたが、「腹をくくって」参加を決意。初戦こそ4回3失点といまひとつだったものの、その後の7試合で日本人最長の7連勝を記録しただけでなく、46回で5失点、58奪三振で8四球、被本塁打は3本だけとまさに完璧な投球を披露した。
8月13日のブルワーズ戦と9月4日のカーディナルス戦はいずれも7回1安打11奪三振。その後、3試合続けて勝ちがつかなかったが、最終登板となった25日のホワイトソックス戦を7回無失点で締め、リーグ単独最多の8勝目。最多勝のタイトルを確実なものとした。
ダルビッシュ本人は今季のベストピッチをカッターだと振り返っている。実際、18年までカッターの投球割合は10%台半ばだったのが、今季は43.7%まで増えており、頼りにしていたことが分かる。その球種で取ったアウトやストライクに基づき、どれだけ失点を防いだかを示す「球種別得点(Run Value)」ではリーグ2位。カッターで効果的にアウトを取れるようになったおかげで四球も減少し(与四球率1.66は自己ベスト)、球数がかさんで早い回でマウンドを下りることもなくなった。
かつて最大の武器だったスライダーの球種別得点は7位、スプリッターも同じく7位だったあたりは「11球種を操る男」の面目躍如だが、見逃せないのは4シームの平均速度95.5マイル(約153.7キロ)も過去最速だった点。35歳にして、4シームも変化球も自己最高のレベルに達していたのは驚異的であり、技術・体力の両面でこれまで積み重ねてきたさまざまなアプローチが正解だったと証明している。
トレーニングやコンディショニングへの関心の高さ、球種や投球スタイルに対する飽くなき探究心を考えれば、30代後半を迎えても急激に衰える要素は少ない。来季も引き続き素晴らしいピッチングを披露し、サイ・ヤング賞候補に名を連ねると期待して良さそうだ。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
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