高校野球

今年初の公式戦マウンドで161球を投げた天理・達――高野連は球数制限だけでなく複数投手を育成する環境を整えるべき<SLUGGER>

氏原英明

2021.03.22

身長193cmと恵まれた体格の達。メジャー球団からも注目を集めている。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 日本高野連は2日目第1試合後の監督インタビューを聞いていただろうか。

 この試合は勝利した天理・達孝太投手が宮崎商を相手に9回6安打1失点完投。球数は161にまで達していたのだが、報道陣から矢継ぎ早に達の投球数や完投について尋ねられた天理・中村良二監督はこう答えたのである。

「得点差は6点ありましたけど、宮崎商業さんは県大会で6点差を逆転してきている。どういう展開になっても、達を交代させる気はなかったですね」

 まだ成長段階にある高校生が150球以上の球数を投じる。それも、今年の公式戦初マウンドでのことだ。

 大会初日の開幕戦でも北海の左腕・木村大成が150球近くを投げたが、試合展開によって指揮官たちの決断が難しくなるケースもある。北海のケースはサヨナラの場面だが、天理は相手チームの過去の戦いぶりから慎重になった。指揮官たちは試合の勝利を優先し、最悪の事態まで想定する。高校野球が常にトーナメントで戦っている以上、必然的に「負けられない戦い」になるのだ。
 
 いまだ収まることがない「エース依存」による登板過多は、高校野球のシステムそのものに起因していると言える。

 高校野球での登板過多は、センバツ大会でも意外に多い。

 鮮烈な記憶に残るところでは、2013年の2回戦・済美対広陵戦で、済美のエース・安楽智大(現楽天)が234球を投げたケースである。延長戦までもつれた試合で、交代機を逸してしまったために起きたものだった。この他にも、17年には4人の投手が1試合190球以上を投げている。

 センバツがエースに頼り切りになりやすいのは、そこに至るまでに複数の投手を試す機会が少ないためだ。

 高校野球の新チームの初公式戦は夏の甲子園が終わるか、終わらないうちにスタートする秋季大会からだ。早い地区では夏の甲子園の真っ最中に、秋の敗退が決まってしまうこともある。つまり、最初の段階からすぐ「負けられない戦い」が始まっているということだ。
 
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「負けられない戦い」が生む極端なエース依存