先日開幕したばかりのマイナーリーグで、ある選手が注目を集めている。ジャイアンツ傘下3Aのサクラメント・リバーキャッツに所属する外野手のドリュー・ロビンソン。彼は1年前に自殺未遂で右目を失いながらも、カムバックに懸けているのだ。
2010年にドラフト4巡目指名でレンジャーズに入団したロビンソンは、17年にメジャーデビュー。18年までに計95試合に出場したが定着には至らず、2年間で6度もメジャーとマイナーを行き来した。
カーディナルスへ移籍した19年は開幕メジャー入りを果たすもののやはり定着はできず。夏に左ヒジの手術を受けた後、1か月も経たないうちに解雇されてしまった。昨年1月にジャイアンツにマイナー契約で拾われたが、ロビンソンはうつ病に苦しめられていた。
「自分がメジャーリーガーとして成功するなんてできるはずがない」。そんな思いに取りつかれたロビンソンは絶望し、4月に自宅で拳銃自殺を図った。
だが、彼は死ななかった。20時間後に意識を取り戻すと、「右眼が開かず、頭に大きな穴が開いたような激痛」に見舞われた状態で自ら日本の110番に当たる911に通報した。
右眼を失ったロビンソンだが、数度の手術とリハビリを経てフィールドへ戻ってきた。そこに至るまでには、家族はもちろん婚約者の支えもあった。ロビンソンとダイアナ・アンゲロワさんは、高校時代に知り合い、18年の冬に婚約。昨年11月には結婚する予定だった。ロビンソンが自殺未遂をした後、アンゲロワさんはロビンソンの家族と友人に声をかけ、ビデオメッセージを送ってもらったという。「自分はもう終わった」と思っていたロビンソンはメッセージに励まされ、再起に向けて大きな勇気を得た。
5月6日、ロビンソンは3Aの開幕戦に「8番ライト」として出場した(ちなみにこの試合では、前阪神のジャスティン・ボーアも先発出場している)。相手は、アスレティックス傘下ラスベガス・アビエイターズ。試合が行なわれたラスベガスは奇しくもロビンソンの故郷で、自殺を図った場所でもあった。
開幕2試合はノーヒットに終わったが、3試合目に今季初安打を放つと、11日の試合ではホームラン。ロビンソンはツイッターに「ぞくぞくした。ベースを回る間、いろいろな感情が混ざって泣いてしまったよ」と投稿した。
ロビンソンのメジャー復帰が実現するかどうかは(もちろん、そうなることを願いたいが)、まだ分からない。隻眼のメジャーリーガーは、1957年にパイレーツで11登板したワーミー・ダグラスが最後だと言われている。
立体視ができないハンディキャップは並大抵のものではない。だが、ロビンソンはもう絶望してはいない。「自分がしようとしていることが困難なことだと理解している。両目でも野球は大変だった。だけど、僕は同情されるだけの人間になりたくはない。この信じられないようなチャンスをを存分に生かしたいんだ」。再起に懸ける思いを語るロビンソンの姿には、「彼ならばきっとメジャーにカムバックするのではないか」と思わせるだけの力強さが込められている。
5月18日時点の成績は、9試合に出場して打率.148、1本塁打、OPS.578。だが、ロビンソンの復活はまだ始まったばかりだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
2010年にドラフト4巡目指名でレンジャーズに入団したロビンソンは、17年にメジャーデビュー。18年までに計95試合に出場したが定着には至らず、2年間で6度もメジャーとマイナーを行き来した。
カーディナルスへ移籍した19年は開幕メジャー入りを果たすもののやはり定着はできず。夏に左ヒジの手術を受けた後、1か月も経たないうちに解雇されてしまった。昨年1月にジャイアンツにマイナー契約で拾われたが、ロビンソンはうつ病に苦しめられていた。
「自分がメジャーリーガーとして成功するなんてできるはずがない」。そんな思いに取りつかれたロビンソンは絶望し、4月に自宅で拳銃自殺を図った。
だが、彼は死ななかった。20時間後に意識を取り戻すと、「右眼が開かず、頭に大きな穴が開いたような激痛」に見舞われた状態で自ら日本の110番に当たる911に通報した。
右眼を失ったロビンソンだが、数度の手術とリハビリを経てフィールドへ戻ってきた。そこに至るまでには、家族はもちろん婚約者の支えもあった。ロビンソンとダイアナ・アンゲロワさんは、高校時代に知り合い、18年の冬に婚約。昨年11月には結婚する予定だった。ロビンソンが自殺未遂をした後、アンゲロワさんはロビンソンの家族と友人に声をかけ、ビデオメッセージを送ってもらったという。「自分はもう終わった」と思っていたロビンソンはメッセージに励まされ、再起に向けて大きな勇気を得た。
5月6日、ロビンソンは3Aの開幕戦に「8番ライト」として出場した(ちなみにこの試合では、前阪神のジャスティン・ボーアも先発出場している)。相手は、アスレティックス傘下ラスベガス・アビエイターズ。試合が行なわれたラスベガスは奇しくもロビンソンの故郷で、自殺を図った場所でもあった。
開幕2試合はノーヒットに終わったが、3試合目に今季初安打を放つと、11日の試合ではホームラン。ロビンソンはツイッターに「ぞくぞくした。ベースを回る間、いろいろな感情が混ざって泣いてしまったよ」と投稿した。
ロビンソンのメジャー復帰が実現するかどうかは(もちろん、そうなることを願いたいが)、まだ分からない。隻眼のメジャーリーガーは、1957年にパイレーツで11登板したワーミー・ダグラスが最後だと言われている。
立体視ができないハンディキャップは並大抵のものではない。だが、ロビンソンはもう絶望してはいない。「自分がしようとしていることが困難なことだと理解している。両目でも野球は大変だった。だけど、僕は同情されるだけの人間になりたくはない。この信じられないようなチャンスをを存分に生かしたいんだ」。再起に懸ける思いを語るロビンソンの姿には、「彼ならばきっとメジャーにカムバックするのではないか」と思わせるだけの力強さが込められている。
5月18日時点の成績は、9試合に出場して打率.148、1本塁打、OPS.578。だが、ロビンソンの復活はまだ始まったばかりだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。