かつての「ステロイド時代」のような“黒歴史”が、MLBに再び生まれようとしているかもしれない。
現地時間6月4日、米誌『スポーツ・イラストレイテッド』電子版は、「スポーツ界で最大のスキャンダルになるはずの問題」と銘打った特集記事で、投手がボールに異物を着ける“不正投球”をMLB機構が事実上黙認してきたと告発した。
近年、MLBでは投手の球速が著しく向上し、ボールの回転数(スピンレート)も右肩上がりに。それにより奪三振数の急増に大きく関係しているとも言われている。記事によれば、接着剤などを混ぜた粘着性の異物をボールに塗り、摩擦をより多く発生させる不正投球が球界に広く蔓延。それが過去数年のスピンレートの異常な向上の大きな要因だと指摘している。
ボールに異物を塗る不正投球はルールブックではもちろん禁止されており、見つかれば出場停止などの処分が下される。だが、MLB機構はすべての「異物」をルールで明確に禁止することは困難であるという理由から、これまで積極的に取り締まってこなかった。
また、程度の差こそあれほとんどのチームが“不正投球”を行っていることもあり、選手やチームの側からも厳しい取り締まりを求める声はあまり上がってこなかった。
しかしながら、この問題が過去にまったく表面化していなかったわけではない。2018年には、トレバー・バウアー(現ドジャース)が、「異物を使用する投球が蔓延している」とツイッターで宣言。特にジャスティン・バーランダーらアスロトズの投手が、不正によってスピンレートを飛躍的に向上させているのではないかと指摘して物議をかもした。
さらに昨年末にはエンジェルスの元球団職員が起こした訴訟で、ゲリット・コール(ヤンキース)が松ヤニなどの異物を混入した規定違反のロジンバッグを提供してほしいと依頼したメールが証拠として提出された。この職員は他にも、バーランダーやマックス・シャーザー(ナショナルズ)が松ヤニ入りロジンを使用していたと証言している。
さらにバウアーも、今年4月に粘着性物質を使用した疑いでMLB機構により調査されている(不正投球の明確な証拠は見つかっていない)。奇しくも今季から加わったドジャースは、投手陣全体のスピンレートの向上幅がMLB30球団でトップとなっていて、「最も効果的に不正投球を行っているのでは?」との疑惑が浮上している。
バウアーは前述の告発の際に、これらの不正を「ステロイド時代よりずっとたちが悪い」と表現しているが、異物使用の不正投球も、ステロイドと似た軌跡をたどって球界に蔓延してきたようだ。
1990年代~00年代前半、いわゆる「ステロイド時代」には、「ステロイドを使わないとメジャーで生き残れない」という理由から、薬物使用に走った選手が数多くいた。それと同様に、今回の記事で取材に応じた匿名のリリーフ投手も、「異物を使わなければ、スピンレートが低いという理由で試合に起用してもらえない」と語っている。
薬物検査の導入と厳罰化により、球界におけるステロイド汚染はある程度沈静化した。今回の“不正投球問題”は、球界に新たな変革をもたらすのだろうか。
構成●SLUGGER編集部
現地時間6月4日、米誌『スポーツ・イラストレイテッド』電子版は、「スポーツ界で最大のスキャンダルになるはずの問題」と銘打った特集記事で、投手がボールに異物を着ける“不正投球”をMLB機構が事実上黙認してきたと告発した。
近年、MLBでは投手の球速が著しく向上し、ボールの回転数(スピンレート)も右肩上がりに。それにより奪三振数の急増に大きく関係しているとも言われている。記事によれば、接着剤などを混ぜた粘着性の異物をボールに塗り、摩擦をより多く発生させる不正投球が球界に広く蔓延。それが過去数年のスピンレートの異常な向上の大きな要因だと指摘している。
ボールに異物を塗る不正投球はルールブックではもちろん禁止されており、見つかれば出場停止などの処分が下される。だが、MLB機構はすべての「異物」をルールで明確に禁止することは困難であるという理由から、これまで積極的に取り締まってこなかった。
また、程度の差こそあれほとんどのチームが“不正投球”を行っていることもあり、選手やチームの側からも厳しい取り締まりを求める声はあまり上がってこなかった。
しかしながら、この問題が過去にまったく表面化していなかったわけではない。2018年には、トレバー・バウアー(現ドジャース)が、「異物を使用する投球が蔓延している」とツイッターで宣言。特にジャスティン・バーランダーらアスロトズの投手が、不正によってスピンレートを飛躍的に向上させているのではないかと指摘して物議をかもした。
さらに昨年末にはエンジェルスの元球団職員が起こした訴訟で、ゲリット・コール(ヤンキース)が松ヤニなどの異物を混入した規定違反のロジンバッグを提供してほしいと依頼したメールが証拠として提出された。この職員は他にも、バーランダーやマックス・シャーザー(ナショナルズ)が松ヤニ入りロジンを使用していたと証言している。
さらにバウアーも、今年4月に粘着性物質を使用した疑いでMLB機構により調査されている(不正投球の明確な証拠は見つかっていない)。奇しくも今季から加わったドジャースは、投手陣全体のスピンレートの向上幅がMLB30球団でトップとなっていて、「最も効果的に不正投球を行っているのでは?」との疑惑が浮上している。
バウアーは前述の告発の際に、これらの不正を「ステロイド時代よりずっとたちが悪い」と表現しているが、異物使用の不正投球も、ステロイドと似た軌跡をたどって球界に蔓延してきたようだ。
1990年代~00年代前半、いわゆる「ステロイド時代」には、「ステロイドを使わないとメジャーで生き残れない」という理由から、薬物使用に走った選手が数多くいた。それと同様に、今回の記事で取材に応じた匿名のリリーフ投手も、「異物を使わなければ、スピンレートが低いという理由で試合に起用してもらえない」と語っている。
薬物検査の導入と厳罰化により、球界におけるステロイド汚染はある程度沈静化した。今回の“不正投球問題”は、球界に新たな変革をもたらすのだろうか。
構成●SLUGGER編集部