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突然の引退宣言→翌日撤回。メルセデスの騒動に見るメジャーリーガー生存競争の裏側<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.07.27

開幕直後に大活躍したメルセデスだが、その後は失速。突然の引退宣言で世間をにぎわせた。(C)Getty Images

 7月21日、ホワイトソックスの28歳の指名打者、ヤーミン・メルセデスが突然、引退を表明した。インスタグラムに、黒地に白文字で「it's over」と記した画像を投稿。周囲の人々への謝罪とともに、ベースボールから離れることを明言したのだ。

 昨シーズンは1打席のみの出場だったが、今季のメルセデスは開幕からの8打席連続安打を皮切りに、4月は打率.415、5本塁打、OPS1.113を記録して月間最優秀新人にも選ばれている。この活躍から、映画『ターミネーター』にちなんで"ヤーミネーター"の愛称がつき、自身もこのニックネームが浮き出るように頭髪を刈り込んだ。

 5月17日には、大差がついた場面で登板した野手を相手にカウント3-0から本塁打を放ち、自軍のトニー・ラルーサ監督から「不文律破りだ」と批判されたことでも話題を振り撒いた。ただ、偶然なのかこの事件を機に一気に失速。7月2日に3Aへ降格となっていた。

 メルセデスの引退表明はホワイトソックスも寝耳に水で、球団は「インスタグラムで知った。現時点では3Aのロースターにいる」と声明を出した。すると翌日、メルセデスは不死鳥の画像とともに引退を撤回。ラルーサ監督との一件に加え、チームに故障者が続出したにもかかわらず昇格の声がかからなかったことも、引退しようと考えた理由かもしれない。ただ、3Aでは引退騒動までの15試合で打率.298、4本塁打、OPS.997を記録。この成績を見るに、まだまだ身を引くには早いだろう。
 
 メルセデスのように衝動的に引退を宣言してしまう選手は、これまでにも何人かいた。昨年7月にも、DVによる出場停止処分のさなかにあったドミンゴ・ヘルマン(ヤンキース)が、インスタグラムに「ベースボールを辞めます。皆さん、ありがとう」と引退宣言。翌日に撤回したということがあった。

 また、トミー・ラステラ(ジャイアンツ)もカブス時代の2016年7月に3A降格となった際、チームに合流せずに自宅へ帰ってしまい、説得を受けてようやくフィールドへ戻ったことがある。メジャーの過酷な生存競争に晒されているからこそ、うまくいっていない時にはネガティブな考えが頭をよぎってしまうのかもしれない。

 だが、ヘルマンは今季になってヤンキースのローテーションへ復帰。ラステラは今季こそ長期欠場しているが、19年にオールスター出場を果たすなど一線級の選手となった。そしてメルセデスも、7月23日に3Aで再スタートを切り、最初の打席で見事本塁打を放つなど、メジャー昇格に向けて心機一転の活躍を続けている。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
 
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