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プロ野球

異例だった開幕前の退任発表。矢野監督の言葉に「正直あまり聞きたくなかった」と漏らした虎戦士の掲げる想い

チャリコ遠藤

2022.02.06

キャンプイン前日に今季限りでの退任を決意した矢野監督。その言葉に選手たちは何を想うのか。写真:産経新聞社

キャンプイン前日に今季限りでの退任を決意した矢野監督。その言葉に選手たちは何を想うのか。写真:産経新聞社

 コロナ禍での静かなキャンプインのはずが、指揮官の言葉で一気に様相が変わった。オミクロン株の止まらぬ感染拡大による取材制限でリモートでの対応となった阪神タイガースのキャンプイン前日の会見だ。

 例年、ホワイトボードを使っての熱弁など、全体ミーティングで熱く語りかける矢野燿大監督が今年は何を話したのか。そんな自然な流れでの問いに、昨年まで守護神を務めたロベルト・スアレスの退団をふまえて「穴を埋められて、(選手が)成長できたというキャンプにしていこうと、そういう話をした」と答えた指揮官は、自ら切り出した。

「もう1個は……俺の中で今シーズンをもって監督は退任しようと思っているので、それを選手たちに伝えた」

 シーズン開幕どころか、プロ野球界の“お正月”を迎える前の異例の表明だ。いったいなぜなのか。矢野監督は、こう言葉を続けた。

「伝えたからって選手にどうしてほしいというわけではないんだけど。俺も選手たちに後悔のない野球人生を歩んでもらいたいとか、昨日の自分を超える日々を過ごしてほしいとか言っているなかで、俺自身、来年はもう監督という立場でここに来ていることはないんだなという気持ちを持って、自分も挑戦していきたい」

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 選手の奮起を促す“劇薬”的な意味合いでの表明を否定したうえで、自らの退路を完全に断ち、一日一日を無駄にしない心持ち、自身の姿勢の部分を強調した。

 今日という日は2度と返ってこない――。それは就任以来、選手たちにも繰り返し伝えてきた矢野野球の根幹だ。今回の発表もタイミングは電撃的で、インパクトも大きくなったが、「退任」という言葉を使ってあらためてチームの指針を示した意味合いもあったのかもしれない。

 そもそも、不退転で臨む“ラストイヤー”に変わりはなかった。3年契約の最終年となった昨季は、ヤクルトに捲られてレギュラーシーズン2位。3年間はすべてAクラス入りも、リーグ優勝には届かなかった。シーズン途中に続投要請を受けた球団と結んだのは単年契約。その時点で球団側に退任の意向は伝えていた指揮官は、それを秘めることなく、表明する驚きの選択をしたのだ。

 では、選手たちはどう受け止めたのか。事前の段階から監督に続いてキャンプインの前日取材に応じることが決まっていた坂本誠志朗の第一声は、「びっくりしたのが一番」だった。

「監督もいろんな覚悟や思いがあって言葉にされたと思う。自分たちのやることは変わらないと思うので、野球で体現したい。優勝監督という称号をプレゼントしたい思いは強くなった」

 新主将はチーム内に広がる動揺を考慮しながらも、冷静かつ自身に強く言い聞かせるように言葉を繋いだ。
 
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