負ければ、崖っぷちに立たされる。そんな緊張感の中での日韓戦は、韓国球界屈指の天才でも、耐え切れないプレッシャーに苛まれていたようだ。

　去る３月10日に行なわれたワールド・ベースボール・クラシック１次リーグ・プールB第２戦で行なわれた日本代表戦で韓国代表は４対13と大敗。オーストラリア代表との初戦を７対８で落としていただけに、負ければ敗退濃厚となる宿敵との一戦だったが、彼らは力及ばなかったわけである。

　そんな運命の日韓戦の舞台裏も明らかになった。３月14日に韓国の日刊紙『MK』の取材に応じた元韓国代表のイ・ヨンギュ（現キウム・ヒーローズ）は、10日の試合が始まる40分前に「韓国の顔」と称される若きスターで、所属チームの同僚でもあるイ・ジョンフから電話を受けていたと明かした。

「彼から電話があったんだ。とにかく彼は『先輩、僕は緊張しすぎてる』と言っていた。離れた場所まで、彼がわざわざ電話をかけてくるぐらいだから相当だ。僕は彼に『大丈夫だ。気楽にしてろ。自信を持っていい。君は能力がある選手なんだ』と伝えた」

　そのアドバイスのおかげもあってか、イ・ジョンフは、日本の先発だったダルビッシュ有（サンディエゴ・パドレス）からタイムリーヒットを記録するなど４打数２安打と気を吐いた。それでも試合後の取材対応で彼は「僕の野球人生はいつ終わるか分からないけど、今回の日韓戦は野球人生が終わるまで思い出すと思う」と吐露。国際大会における日韓戦の重みを口にした。

　試合前にまさかの電話を受けて「驚いた」というイ・ヨンギュも、24歳の天才スラッガーの気持ちを慮る。かく言う彼も宿命の対決には、並々ならぬ覚悟で臨んでいた選手だったからだ。

　2008年に開催された北京五輪で実現した日本との準決勝におけるワンシーンは、世界に衝撃を与えた。韓国が侍ジャパンを破ったこの試合で、ラストボールをライトで捕球したイ・ヨンギュは涙ながらにひざまずいた。このシーンは、金メダルと兵役免除も懸かった日韓戦に対する強い意気込みを象徴するものとして語り継がれている。
  　そんな日韓戦のプレッシャーを熟知する37歳のベテラン戦士は、「スポーツは結果が全てで語られる。とくに代表戦はね。僕も重圧や、敗北への罪悪感は分かっている」とし、韓国球界が抱える課題を語った。

「東京ドームでの試合は一方的に感じただろうね。僕もあの空気感は知っている。相当なものだ。３点を先制できたのは良かったが、守らなきゃいけないというプレッシャーに、個人個人の技術が発揮できなかったように見えたよ。

　今大会で選手たちは実感したはずだ。とにかく個々の努力で、技術を高めていかなければならない。まず、日本のように良い球を投げられる投手がたくさんいて、それを打てる打者が出てこなければならない。そうなれば、国際大会に出てもすぐに対応できる。いまは僕らのリーグをネクストレベルに引き上げなければならない」

　ネクストレベルへ――。国内メディアで「悪夢」とも記された日韓戦での大敗劇は、韓国球界が変わっていくキッカケとなるのだろうか。

構成●THE DIGEST編集部

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