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快進撃を続ける貧乏球団レイズを影で支えるのは野球の素人?経歴や性別に関係なく優れた人材を登用するMLBの懐の深さ<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2023.06.08

資金力はMLBワーストクラスながら、レイズは優れたイノベーションで勝利を積み重ねている。(C)Getty Images

資金力はMLBワーストクラスながら、レイズは優れたイノベーションで勝利を積み重ねている。(C)Getty Images

 年俸総額はメジャー30球団中27番目、それでいて、MLB最高勝率をマークするなど圧倒的な強さを発揮しているレイズ。金をばらまいて補強するのではなく、知恵を絞って勝利を収め続けている。それはレイズのチームカラーとも言うべきものだ。

 例えば、あまりにも浸透しすぎてついに今季から禁止された、極端な守備シフト。これもジョー・マッドン監督時代にレイズが広めたものである。数年前に大流行した、リリーフ投手を先発として起用するオープナー作戦も同様だ。このような新機軸を次々に打ち出して、彼らは資金不足を跳ね返し続けている。

 常識に囚われないレイズの象徴とも言えるのが、日本では考えられないような経歴を持つ一人のコーチである。「プロセス・アンド・アナリティクス・コーチ」の肩書きを持つジョナサン・アーリックマンは、野球選手だった経験すらない完全な素人なのだ。日本のプロ野球でも、トレーニング/コンディショニングコーチなどは元野球選手でなくとも務めているケースはあるが、アーリックマンはそのような専門職でもない。
 トロント生まれのアーリックマンは、カナダの少年のほとんどがそうであるように、幼少時はアイスホッケーのファン。野球は子供向けのTボールを経験しただけだったが、統計好きの彼は『マネー・ボール』を読んで、統計の宝庫である野球に関心を抱いた。プリンストン大で数学の学位を取得したのち、2013年にレイズのフロントでデータ分析の仕事を得る。16年に同部門の責任者となり、19年からは背番号97のユニフォームを着てグラウンドに立っている。

 仕事の内容は、選手とコーチ、フロントの間の連携を図り、データ分析によって得られた知見を円滑に活用することだ。選手や指導者が全員データに詳しいわけはないので、それぞれ数字が何を意味するのか、パフォーマンスの向上や作戦を立てる上でどのように使えばいいか、的確な助言を与える。一方的に自分の見解を押しつけるのではなく、相手との会話を重視して、相互理解を深めるスタイルだ。レイズには「勝利の助けになることに関して、みなが何でも受け入れる」土壌があると彼は言う。

 一昔前であれば「野球経験のないヤツの言うことなんて聞けるか」と反発されただろうし、日本では今でもそうした考え方が強いだろう。しかし隅々までデータが行き渡っている今のMLBでは、それを活用できるか否かが勝敗を分けることは、選手もコーチ陣も分かっている。だから専門家であるアーリックマンが必要とされ、首脳陣や選手も彼の意見に耳を傾けるのだ。
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