高校野球

“高校屈指の名三塁手”履正社・森田が攻守で見せた実力【甲子園2日目のプロ注目選手】<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2023.08.08

森田は三塁手が“ホットコーナー”と呼ばれた昭和のプロ野球を思わせるような活躍を攻守にわたって見せてくれた。写真:鈴木颯太朗(THE DIGEST写真部)

 かつての野球において、花形ポジションと言えばサードだった。"ミスター・プロ野球"こと、元巨人の長嶋茂雄のスローイングを真似したというオールドファンも多いはずだ。1980年代にも巨人では原辰徳、阪神にも掛布雅之というサードのスターが活躍しており、野球少年たちの憧れとなっていた。しかし、次代の変化とともに内野は守備負担の大きい二遊間が重要視されるようになり、能力の高い選手はショートを守るケースが増加した。現役でも村上宗隆(ヤクルト)、岡本和真(巨人)というスター選手はいるものの、サードを固定できていない球団も多い。

 前置きが長くなったが、「三塁の地位低下」の流れは高校野球の世界でも顕著だ。この夏の甲子園でもスラッガータイプのファーストと運動能力の高いショートは揃っているが、サードは人材不足という印象は否めない。

 そんな今大会の中で、貴重なサードの好素材と言えるのが履正社の森田大翔だ。レギュラーとなったのは2年秋からだが、直後の大阪府大会でいきなり6割を超える打率をマーク。春のセンバツでは4打数1安打に終わったものの、この夏の大阪大会でも7試合で16安打、3本塁打、打率.571と打ちまくり、チームの春夏連続甲子園出場に大きく貢献している。
 
 そして迎えた鳥取商との初戦、いきなり森田のバットは火を噴いた。1回表、一死一・二塁の場面で打席に入ると、3球目のストレートを振り抜いて弾丸ライナーの3ランをレフトスタンドに叩き込んだのだ。打ったのは132キロとそこまでスピードはなかったが、内角高めのギリギリの難しいコースであり、ひと振りで最高の結果を出したのはさすがという他ない。とらえた時のインパクトの音や打球の勢いなどパワーはもちろん素晴らしいが、身体の近くからスムーズにバットを振り出し、それでいながら鋭く体を回転させるという高等技術に唸らされた。

 また9回には2つのサードゴロを立て続けにさばいた際に、軽快なフットワークと正確なスローイングも見せている。近年はチームの先輩である安田尚憲(ロッテ)や小深田大地(DeNA)のように左打者が多い中で、希少性の高い右打者という点も大きな魅力だ。

 まさに満点と言える活躍で、まずは夏の甲子園初戦を飾った森田だが、同時に課題が見えたことも確かだ。ホームラン以降の打席では、4打席目の死球以外はすべて変化球で徹底して攻められ、思うようなスウィングができず。結局、4打数1安打という結果に終わった。腕力があることは確かだが、少し上半身の力に頼った部分があるため、もう少し楽に振れるようになれるかが今後のポイントと言えるだろう。

 それでも、第1打席のファーストスウィングで見せた衝撃は相当なものがあった。2019年夏以来4年ぶりの全国制覇に向けて、2回戦以降も森田のバットにかかる期待は大きい。

構成●SLUGGER編集部