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高校野球

常識外のミスを連発しながらも成し遂げた107年ぶりの全国制覇。慶応が示した新たな高校野球の形【氏原英明が見た甲子園決勝】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.24

高校野球のセオリーに反するプレーや連発しながらも、全国の頂点に上った慶応。森林監督(写真)の異色の采配や指導が光った。写真:THE DIGEST写真部

高校野球のセオリーに反するプレーや連発しながらも、全国の頂点に上った慶応。森林監督(写真)の異色の采配や指導が光った。写真:THE DIGEST写真部

 球場が揺れていた。

 慶応の1番打者・丸田湊斗が、狼煙を上げる爽快な一発を放ったからだ。

「初回が一つのチャンスだと思っていて、主将がじゃんけんで負けて先攻にしてくれた。表でまず打ちたいなと狙っていましたが、見事な当たりでした」

 そう語ったのは慶応の森林貴彦監督だった。それがまさかの大会史上初、決勝戦での先頭打者本塁打。球場の声援を背に戦った慶応は3回までに3点を先取し、試合を優位に進めることができたのだった。

 改めて今大会の慶応の戦いぶりを振り返って驚いたのは、これまでの甲子園優勝校だったらあり得ないようなプレーをしながらも、負けなかったことだった。

 たとえば、1番の丸田はフライをよく打つ。完全なフライボールヒッターではないが、この日の凡打は2つの三振以外はすべてフライだった。本塁打の1打席目に続き、2打席目も得点に絡む適時打を放っており、これもフライボールでのヒットだった。

「(ホームランは)上げようという意識はなかったんですが、昨日スライダーを打つ練習をしていて、その軌道と似ていたので上手く打つことができました」
 
 慶応には、フライを打つことが悪いという意識はない。丸田にしても、バットの軌道がフライボールを生み出している。そのうちの一つがホームランになっただけだったのだろう。

 常識外のことは丸田のホームランだけではない。この日は4失策もあったし、思わず走者が飛び出してしまっての憤死あり、盗塁の失敗ありとミスも出ていた。これらは、高校野球においては試合の流れを変えてしまいかねないプレーばかりだ。

 しかし、これらは慶応にとってはいつも通りだった。

 そして気がつくと、試合は彼らのペースで進んでいるのである。

 森林監督がその理由をこう説明する。

「練習ではダメ出しをしたり、もう一度やらせることもありますけど、公式戦においては、ミスは“引きずったもん負け”なんです。ですから、過ぎたことはどう考えても戻せないので、それよりも明るく前向きに行くというのが試合中の私達のメンタルの作り方なんですよね。ミスが出ても勝とうと言ってきたので、メンタル面はたくましくなったかなと思います」

 この差は大きいだろう。指導者が叱責するかどうかは別にしても、高校野球の常識では「ダメだ」と言われていることが、慶應義塾にしてみれば「普通のこと」と処理できるのであれば、確かにこれほどのアドバンテージはない。
 
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