侍ジャパン

「日本文化を守らなきゃ」ヌートバーが抱いた侍Jでの“苦悩”。米メディアで語った本音「馬鹿のせいでアメリカ人を悪くするのは嫌」【2023名場面・珍場面】

THE DIGEST編集部

2023.12.16

スタンドの歓声に「お辞儀」で応えるなど日本文化に馴染む姿勢を随所で見せたヌートバー。そんな彼が侍ジャパンの一員として戦った日々を振り返った。(C)Getty Images

 2023年のスポーツ界で印象的な出来事を『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は日系人として初めて侍ジャパンの一員になったラーズ・ヌートバー(セントルイス・カーディナルス)を取り上げる。

 初参加のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を異国の代表選手として戦うことを決意したヌートバー。彼が母国・米メディアに語った侍ジャパンとしての苦悩、そして覚悟とは――。

記事初掲載:2023年4月24日

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 期間は決して長くはない。それでも25歳にして"異国"の代表戦士となった25歳にとって、今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は「最高の瞬間」だった。

 約6年ぶりに開催された第5回WBC。大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)やダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)の参戦が早々に決まった日本代表には、史上最多3度目の優勝の期待が開幕から集まっていた。

 大会後に栗山英樹監督が発した言葉を借りれば、「しんどかった」。それでも重圧をはねのけた侍ジャパンは見事に決勝でアメリカ代表を撃破。敵地マイアミで快哉を叫んだわけだが、その輪の中心にいたのは、ラーズ・ヌートバー(セントルイス・カーディナルス)だ。

 日系人選手として初めて侍ジャパンの一員となったヌートバー。「文句を言われてもグローバル化したい」とした栗山監督たっての希望で招集された彼だが、実質メジャー1年目を終えたばかりだったために、実力を疑う声は少なくなかった。

 そうした周囲からのプレッシャーは、遠く離れた母の母国で決意をした当人にも届いていた。4月18日に公開となった米メディア『Jomboy Media』のクリス・ローズ氏がMCを務める人気ポッドキャスト番組「The Chris Rose Rotation」に出演した際に、彼は人知れず抱えていた想いを口にしている。

「正直、相当に緊張していたよ。僕は家族の名前を汚すようなことだけはしたくなかったからね。文化も完全に理解していたわけじゃないし、もちろん言葉も全然わからない。プレー面だけじゃなくて日本の文化やマナーを守らなきゃっていうプレッシャーがあったよ」
 
 さらに「野球は野球だから、ただ楽しんでプレーすればいいだけだからとくに心配はなかった」と続けたヌートバーは、グラウンド内外の"マナー"に対して「一番緊張をしていた」とも明かしている。

「日本文化を理解して、尊重するのは簡単じゃなかった。こっちで大丈夫なことも、日本ではダメな場合がある。とにかく日本はそういうことを重んじるのは聞いていたから、そこが一番の不安だった。それからアメリカ人のイメージを悪くするのも嫌だったんだ。たったひとりの馬鹿のせいでアメリカ人に対するイメージを損ねるのは恐かった」

 自らの所作に人一倍の気を使ったヌートバー。そんな25歳の慎ましい心持は多くの日本人に愛された。常に全力だったグラウンドでのパフォーマンスに対する評価もさることながら、何よりも明るく前向きで、日本に馴染もうする姿に誰もが刺激を受け、一大フィーバーが起きたのは記憶に新しい。

 いまではテレビ番組のスポーツコーナーでも多くの日本人メジャーリーガーに交じって、その日の結果が報じられるようになった。この事実からもヌートバーは多くの日系人選手たちの可能性を切り開いたと言えよう。

 すでに2026年のWBCにも日本代表としての参戦を表明しているヌートバー。彼は先述の番組において侍ジャパンの一員として戦った日々を、しみじみと振り返っている。

「本当に信じられない経験だった。日本のファンはみんな最高で、野球に対する情熱が凄まじかった。なんというか……言葉では言い表せないものがあるね。決勝戦の後にマイアミのキャンプ地に戻る時にイッペイ(水原一平)と、『日本からここまでくる間は本当に嘘みたいだ』って話したんだ。もう本当に劇的な結末だったし、説明できないくらいに興奮した夢のような出来事だった」

構成●THE DIGEST編集部

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