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オープン戦無双の鈴木誠也はまだ本当の力を見せていない?心・技・体の充実で爆発の予感漂うメジャー3年目<SLUGGER>

ナガオ勝司

2024.03.29

昨季後半戦に続き今春のオープン戦でも絶好調だった鈴木。カブス打線の中心として期待される。(C)Getty Images

 その一球は、遥か高く舞い上がり、遥か遠くまで、飛んでいった――。

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 3月25日の月曜日(現地)、アリゾナ州メサにあるカブスのスプリング・トレーニング本拠地=スローン・パークで行われたカーディナルス戦の五回、鈴木誠也が放った打球は、左翼の芝生席中段まで飛んでいった。

 まるでホームラン・バッターのような大きな弧。まさしく、アーチ。

「結果は後からついてくるものなので、とくに気にしてないです」と試合後の鈴木。文字通り、「ムッキムキ」の身体に、精悍な表情。メジャーリーガー、Seiya Suzukiはオープン戦15試合41打席で打率.495、6本塁打、12打点はいずれもチーム最多、つまり、三冠だった。ちなみに出塁率は.512、長打率1.081。OPSは驚異の1.593である。

 ただし、彼は記録に残らぬオープン戦の成績など1ミリも気にしていない。注意を払っているのは、自分の打撃をするためのプロセスであり、そこには隙がない。

「打席に入るまでの準備とか、入り方が良いから、こういう風な結果になっているんだと思います」

 とは言え、彼も人間だ。時には打席で打つべきではなかった球に手を出して凡退し、「頭に来たんで、ホームラン狙ってた」と次の打席で強引にバットを振ってしまうこともある。それはつまり、公式戦ではしないことをできる余裕が、今年のキャンプではあった証でもある。

 もちろん前述のように、オープン戦の好調など、公式戦には何の関係もない。だが、それでも今年の彼に期待してしまうのは、昨季前半戦、71試合で打率.259、7本塁打、28打点、OPS.747と苦しみ、後半に入って一時的にスタメンを外されるなど苦境に陥ったものの、67試合で打率.319、13本塁打、46打点、OPS.938と巻き返した姿を目撃したからかも知れない。
 大谷翔平(ドジャース)関連のニュースの波に飲み込まれているがゆえ、去年後半からの鈴木の爆発を知らぬ人々は、「どうなってるの? 凄いやん!」と思って当然だが、今の彼は昨季終盤、特にチームがポストシーズン争いに絡んだ9月に月間打率.370、7本塁打、26打点、OPS1.119と圧倒的な打棒を発揮した状態の、延長線上にある。 

 そして、それは自主トレーニングからキャンプ、オープン戦へと続く時の流れの中で、「今以上」を望むアスリートの宿命を背負って試行錯誤を繰り返してきた果ての、確かな結果だ。

「年々、身体自体は強くなってきているんですけど、動きの面に関して、ちょっとぎこちないと言いますか、自分が思ったように身体が動かせてないなっていう感覚があった。今年で30歳にもなりますし、いろいろトレーニングの仕方だったり、工夫して変えていってる中で、オフシーズンを過ごした。今はそれが良い形になってでてきている」

 キャンプの練習風景で際立っていたのは、守備練習にしろ、走塁練習にしろ、彼の「ふとした動き」が、昨季の公式戦のそれよりもキレがあるように見えたことだろう。明らかに足が速くなったとか、見るからに肩が強くなったということではなく、守備での動き出しや走塁における一歩、一歩が力強く、鋭く見えてしまうのである。

「去年は走塁だったり、守備の方が、自分の思った通りの動きができなかったので、もう一回、そういうところを見直さないと、試合には出られないだろうなと思っていた。打撃だけではなく、守備、走塁に関してもしっかりやらないといけないなという感じだった」

 全体練習の前後、キャンプ施設で短い距離のダッシュを繰り返したり、軸足と体幹を連動させてメディシンボールを投げるトレーニングに打ち込む彼の姿があった。練習の合間に、走塁時の上半身の使い方や、リードとスタートのタイミングを測る姿が見られたのも、彼の意識が守りや走りにあったからだろう。