来年７月、ニューヨーク州クーパーズタウンのアメリカ野球殿堂で、日米の野球交流史に焦点を当てた企画展『野球とベースボール：太平洋を越えた日米の野球交流』が開催される。18日、ラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使の公邸で行われた会見にも同席した、アメリカ野球殿堂館長を務めるジョシュ・ラウィッチ氏がインタビューに応じてくれた。【前編から続く】

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――ご存知のように、日米の間には不幸な歴史もあり、沢村栄治など日本の多くの優れた選手が戦争で命を落としました。そうしたテーマに関する展示は予定していますか？

ジョシュ・ラウィッチ（ＪＲ）　まだ日本野球の歴史についての理解を深めている段階なので、具体的な展示内容は決まっていません。ですから、現時点ではイエスともノーともいえないのです。ただ、クーパーズタウンの殿堂ではかつて、日系人収容所で使用されていたホームプレートを展示したことがあります。収容所でも野球が定着していたことを伝えるのは非常に重要であると、私たちが考えたからです。ですから、今回も戦争にまつわる展示があったとしても驚くことではないでしょう。

――今回の展示を通じて、アメリカのファンにどのようなメッセージを伝えたいですか？

ＪＲ　日本のファンの野球への情熱を理解してほしいですね。日本野球が優れた選手を数多くアメリカに送り込んでいることも。私は、今回の展示で最も重要なキーワードは「exchange」（交流）だと思っています。それは野茂やイチロー、大谷だけに限りません。100年以上も前に、早稲田大と慶応大の選手たちがアメリカ全土を巡業しています。1934年にはベーブ・ルースやルー・ゲーリッグが来日しました。これらの歴史は、今起きていることと同じくらい重要なことです。日米の間の交流が第二次世界大戦よりずっと以前、150年も前から行われていることを知ってほしいのです。そのことを知っているアメリカ人はあまり多くないでしょうから。

――過去のインタビューで「カレッジフットボールやロックンロール殿堂の体験型展示に感銘を受けた」と語っていましたが、新しい時代の殿堂博物館の在り方についてどう考えますか？

ＪＲ　次世代の野球ファンにアピールすることは重要な課題だと考えています。殿堂博物館が開場した85年前と今では、世界は大きく変わっています。ロックンロール殿堂とカレッジ・フットボール殿堂は、インタラクティブ系の展示を充実させ、若いファンに上手くアピールできている好例だと考えています。つまり、これまでと違う形で歴史を伝えていくことが重要なのです。スマートフォンを駆使する若い世代のファンが楽しめるようなものではなくてはなりません。今回の特集展示も、新しいテクノロジーやアイデアを反映させたものになるはずです。もちろん、日本の人たちをはじめ、英語がファーストランゲージではない人たちにも楽しめるような展示にしたいと考えています。 ――ファンが求めるものと、殿堂博物館として伝えるべきものとのバランスをどのように取っているのでしょうか？

ＪＲ　素晴らしい質問ですね。もちろん、殿堂における展示は、歴史的な視点で見て重要なものでなければなりません。例えファンが求めているものでも、歴史的な重要性に欠けるものだったら、我々は自分たちの仕事をしたとは言えません。そして、その逆も真なりで、歴史的に重要な展示でもファンからの評価を得られなければ意味がありません。明確な答えはないのですが、我々は常にファンが一体感を得られるような展示を心がけたいと考えています。

　というのも、「クーパーズタウンに来ることが一生の夢だった」というファンがとても多いからです。そして、クーパーズタウンの殿堂に来たほとんどのファンが「期待以上だった」と言ってくれます。世界中にそんな場所は数えるほどしかありません。そういう場所であり続けることが我々の使命なのです。次世代のファンにも同じように思ってもらえることがね。

――野球ファンは、他のスポーツのファンと比べてもとりわけ歴史や伝統を大事にする姿勢が強い気がします。それはどうしてだと思いますか？

ＪＲ　確かに私も野球ファンは他のスポーツのファンに比べて歴史への愛情が深いと感じます。それがなぜなのか、私にもはっきりした理由は分かりませんが、おそらく他のスポーツよりも過去の選手と密接につながっているからではないでしょうか。大谷が活躍すれば、必ずベーブ・ルースのことが話題になります。100年以上も前の選手で、当時とはゲーム自体がかなり変わっているにもかかわらず、それでも同じように感じられる。世代を超えて過去の選手と比較しようとする気質が、野球ファンならではの特徴なのではないでしょうか。

――来年の特集展示を見に、日本からも多くのファンがクーパーズタウンを訪れると思います。どんなところを見てほしいですか？

ＪＲ　クーパーズタウンは本当に素晴らしい場所です。最高のゴルフコースやレストラン、野球以外のはく物館もあります。湖もあり、ボートに乗って釣りをすることもできます。あまり知られていないかもしれませんが、見どころはたくさんあるんです。もちろん、その中心にあるのは野球殿堂です。多くのファンが殿堂を目的に訪れることは承知していますが、クーパーズタウンそのものの素晴らしさもぜひ体験してほしいですね。

構成●SLUGGER編集部

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