プロ野球

田村藤夫、高橋信二、鶴岡慎也、そして田宮裕涼――日本ハムに脈々と受け継がれる「ドラフト下位指名から正捕手」の系譜<SLUGGER>

出野哲也

2024.05.28

今季から正捕手の座をつかみ、攻守で活躍を続ける田宮もまたドラフト6位と下位指名での入団だった。写真:産経新聞社

 開幕前の予想以上に健闘し、パ・リーグ2位につけている北海道日本ハム。その原動力の一つは、正捕手に定着して攻守にわたって活躍目覚ましい田宮裕涼だ。昨年までの5年間で通算出場わずか31試合だったのが、今季は規定打席にはまだわずかに及ばずも打率.313が実質リーグ2位、盗塁阻止率.318も同じく2位である。

【動画】田宮裕涼、自慢の強肩"ゆあビーム"で盗塁を阻止!

 万波中正、野村佑希らと同じ2018年のドラフトで入団した田宮は、成田高では甲子園の出場経験もなく、指名順位は6位と低かった。これほどの成長を遂げてレギュラーマスクをかぶるようになるとは予想外……というわけでは、必ずしもない。というのは、ファイターズには4位以下で指名された選手が正捕手になるという、不思議な伝統があるのだ。

 日拓ホームフライヤーズを日本ハムが買収し、ファイターズとなったのは1974年。80年まではヤクルトから移籍してきた加藤俊夫が正捕手を務め、81年に大宮龍男がとって代わる。76年に駒沢大から4位指名で入団した大宮は、強気のリードと一発を秘めた打撃が持ち味。81年は15本塁打、53打点でファイターズとしての初優勝に貢献した。

 85年に大宮から正捕手の座を奪ったのは、77年に関東一高から6位指名で入団した田村藤夫だった。下位指名ながら、1年目から野球留学でアメリカに派遣されるなど期待は高く、86年は打率.274、19本塁打。強肩強打の捕手として94年まで10年間レギュラーとして君臨、9年連続でオールスターに出場している。なお、日本ハムになってからサイクルヒットを達成した選手は2人しかおらず、1人目が大宮(80年7月29日)、2人目は田村(89年10月1日)である。

 ファイターズ史上最高の捕手だった田村も、90年代半ばには衰えが見え始め、95年は田口昌徳が先発起用されることが多くなった。92年に駒沢大からドラフト4位で入団した田口は、96年は101試合に出場。だが完全に定着するには至らず、98年には野口寿浩がレギュラーを手にした。移籍組ではあるが、野口も89年に習志野高からヤクルト入りした際はドラフト外だった雑草系。2000年には打率.298、76打点、リーグ最多の11三塁打と大活躍した。

 この間、95年には2位で早稲田大の荒井修光、98年は1位で佐賀学園高の実松一成と、上位で捕手を取ったこともあったが、いずれも大成しなかった。96年3位の小笠原道大(NTT関東)も捕手だったのは2年目までで、打撃を生かして内野にコンバートされた。
 03年、野口に代わって正捕手になったのは小笠原と同期入団の高橋信二。津山工出身の7位指名で、最初の3年は一軍に上がれず、6年目まで通算25試合出場だったのが、7年目に急成長したのは田宮と似た成長曲線だ。この年105試合で12本塁打、北海道に移転した翌04年は打率.285、26本塁打、84打点。本塁打と打点は今でもファイターズの捕手としては最多の数字である。もっとも、ディフェンス面は自ら「守備のことは聞かないで」と言っていたくらいで、09年には一塁へ移る。同年は長打を封印して右打ちに徹し打率.309、「つなぎの4番」としてリーグ優勝に貢献した。

 高橋に欠けていた守備力を評価されて正捕手になったのが、02年8位指名の鶴岡慎也(三菱重工横浜クラブ)。ダルビッシュ有の女房役として評価を高め、09年はゴールデングラブ賞、12年にベストナインを受賞。打撃は弱かったものの、08年に東洋大から1位指名で入団した大野奨太との併用で、13年まで第一捕手の座を守り続けた。

 大野は16年にはゴールデン・グラブに選ばれるなど、正捕手に近い存在だったとはいえ、100試合以上出たのは3シーズンだけ。1位指名としてはやや物足りなかった。15年には、11年4位指名の近藤健介(横浜高/現ソフトバンク)が58試合にマスクをかぶり、DHと併せて129試合で打率.326。またも下位指名の正捕手誕生かと思われたが、スローイングに不安が生じたため外野手に転向した。

 14年2位で入団した清水優心(九州国際大付高)も、パンチ力のある打撃は魅力でも、守備面での雑な部分が解消されずに10年目を迎えた。ここ数年は正捕手が不在で、昨年のドラフトでは2位で上武大の進藤勇也を指名していた。

 そのような状況で田宮が覚醒したのは、球団首脳にとっても嬉しい誤算のはず。このまま田宮が「下位指名の正捕手」の伝統を受け継ぐのか、それとも1歳年下の進藤が、ほとんど初めての例になる、上位指名の正捕手へ成長するのか。彼らが高いレベルで競い合えば、当面日本ハムは捕手の心配をする必要はないだろう。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――"裏歴史の主人公たち"」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

 
NEXT
PAGE
【動画】田宮裕涼、自慢の強肩"ゆあビーム"で盗塁を阻止!