同世代の頂点にいることを証明する快投劇だった。
【動画】戸郷翔征が“伝統の一戦”でノーヒッター!甲子園での達成は巨人では沢村栄治以来
5月24日、巨人の戸郷翔征が阪神戦でノーヒッターを達成。巨人のエースを襲名するとともに、同世代の誰もが意識する存在に上り詰めたと言っていい。
2018年、甲子園100回大会を迎えた時に高校3年生だったこの世代は“黄金世代”と呼ばれたが、戸郷(聖心ウルスラ学園高)はもともとこの世代のトップに君臨してきたわけではない。18年に春夏連覇を果たした大阪桐蔭高の根尾昂(中日)や藤原恭大(ロッテ)が筆頭格で、他には小園海斗(報徳学園高-広島)や吉田輝星(金足農高-日本ハム-オリックス)、浦和学院の渡邉勇太朗、蛭間拓哉(ともに現西武)などが話題の中心だった。
実は、そんな“黄金世代”中心メンバーと戸郷は不思議な邂逅を経験している。
18年秋、U-18アジア選手権大会が宮崎県で開催され、侍ジャパンのメンバーには根尾や藤原、渡邉、蛭間、奈良間大己(常葉大菊川高-立正大-日本ハム)などが選出された。その侍ジャパンが大会前に練習試合を行った際、対戦相手となった宮崎県選抜に戸郷が入っていたのだった。
その試合で1回途中から2番手として登板した戸郷は5回3分の1を投げて5安打、9三振の好投を披露。根尾、藤原から三振を奪った。実はこの時の快投が巨人のスカウトの目に留まり、ドラフト指名につながったとも言われている。
蛭間は当時の戸郷の印象をこう語る。
「名前は知っていましたよ。印象はめちゃくちゃ良かったです。まっすぐは強いし、変化球もキレてましたし。独特のフォームでしたし、めちゃくちゃいい投手という印象でしたね。直接、話をしたことはないんですけど、彼は高卒でプロに入っていて、僕とは経験していることが違いますし、いろんなことを考えて試行錯誤してやってるんだろうなっていうのは話し方からは感じていますね」
人生とは分からないものだ。戸郷はあの壮行試合を境に評価を高めて、そのまま突っ走っている。昨年のWBCでは“黄金世代”から唯一の代表入り。合宿の舞台は奇しくも同じ宮崎サンマリンスタジアムだった。 「(あの時の経験は)今までやってきたことが間違ってなかったんだなって、そう思うことができました。たくさんのことをやってきて、その証明になったかなと。自分のモチベーションを高めるきっかけにはなりました」
宮崎合宿中に高校時代の話を振ってみたところ、戸郷はそんな話をしてくれた。WBCでは合宿の時から中継ぎを任されることが決まっていた。しかし、戸郷は起用法を意に介している様子はまったくなかった。WBCに向けた調整とシーズンに向けた調整があると、こんな話をしていたものだ。
「合宿では多めに投げているんですけど、僕は先発調整もしないといけないんで、シーズンに向けてもしっかりと投げたい。そういう意味で投げ込もうと思っています。中継ぎの登板はいろいろ調整がありますけど、1イニング1イニング出力を上げていけばいいと思っているので、WBCに合わせようという感じはあまりないですね」
淡々と話す様子からは、プロ野球選手としての軸を感じることができた。しかもそれはただ勢いのままに築き上げたものではなく、プロ入りから着実に足場を固めてきた結果だった。そうして、今ではジャイアンツのエースの座をつかんでいる。
昨年秋、戸郷たちの世代を中心とした侍ジャパンがアジアチャンピオンシップを戦った。戸郷自身は出場を免除されたが、同世代の小園、万波中正(日本ハム)、森下翔太(阪神)などが代表入り。彼らは戸郷を必死で追いかけている。
万波が当時、こんなことを語っていた。
「普段は意識することはないんですけど、対戦する時には同級生からは打ちたいなって気持ちになります。WBCに出場した戸郷は素直にすごいなと思いますし、僕らの先を走っているなと思います。僕らの世代では1番なので、追いつき追い越せで頑張りたいなと思います」
同級生から追いかけられる存在となった戸郷が今回、また一歩先を行くかのようにノーヒッターを達成した。おそらく、万波ら同級生たちは改めて戸郷の存在を大きく感じていることだろう。“黄金世代No.1”の男は、交流戦でどんな投球を見せてくれるだろうか。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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2018年、甲子園100回大会を迎えた時に高校3年生だったこの世代は“黄金世代”と呼ばれたが、戸郷(聖心ウルスラ学園高)はもともとこの世代のトップに君臨してきたわけではない。18年に春夏連覇を果たした大阪桐蔭高の根尾昂(中日)や藤原恭大(ロッテ)が筆頭格で、他には小園海斗(報徳学園高-広島)や吉田輝星(金足農高-日本ハム-オリックス)、浦和学院の渡邉勇太朗、蛭間拓哉(ともに現西武)などが話題の中心だった。
実は、そんな“黄金世代”中心メンバーと戸郷は不思議な邂逅を経験している。
18年秋、U-18アジア選手権大会が宮崎県で開催され、侍ジャパンのメンバーには根尾や藤原、渡邉、蛭間、奈良間大己(常葉大菊川高-立正大-日本ハム)などが選出された。その侍ジャパンが大会前に練習試合を行った際、対戦相手となった宮崎県選抜に戸郷が入っていたのだった。
その試合で1回途中から2番手として登板した戸郷は5回3分の1を投げて5安打、9三振の好投を披露。根尾、藤原から三振を奪った。実はこの時の快投が巨人のスカウトの目に留まり、ドラフト指名につながったとも言われている。
蛭間は当時の戸郷の印象をこう語る。
「名前は知っていましたよ。印象はめちゃくちゃ良かったです。まっすぐは強いし、変化球もキレてましたし。独特のフォームでしたし、めちゃくちゃいい投手という印象でしたね。直接、話をしたことはないんですけど、彼は高卒でプロに入っていて、僕とは経験していることが違いますし、いろんなことを考えて試行錯誤してやってるんだろうなっていうのは話し方からは感じていますね」
人生とは分からないものだ。戸郷はあの壮行試合を境に評価を高めて、そのまま突っ走っている。昨年のWBCでは“黄金世代”から唯一の代表入り。合宿の舞台は奇しくも同じ宮崎サンマリンスタジアムだった。 「(あの時の経験は)今までやってきたことが間違ってなかったんだなって、そう思うことができました。たくさんのことをやってきて、その証明になったかなと。自分のモチベーションを高めるきっかけにはなりました」
宮崎合宿中に高校時代の話を振ってみたところ、戸郷はそんな話をしてくれた。WBCでは合宿の時から中継ぎを任されることが決まっていた。しかし、戸郷は起用法を意に介している様子はまったくなかった。WBCに向けた調整とシーズンに向けた調整があると、こんな話をしていたものだ。
「合宿では多めに投げているんですけど、僕は先発調整もしないといけないんで、シーズンに向けてもしっかりと投げたい。そういう意味で投げ込もうと思っています。中継ぎの登板はいろいろ調整がありますけど、1イニング1イニング出力を上げていけばいいと思っているので、WBCに合わせようという感じはあまりないですね」
淡々と話す様子からは、プロ野球選手としての軸を感じることができた。しかもそれはただ勢いのままに築き上げたものではなく、プロ入りから着実に足場を固めてきた結果だった。そうして、今ではジャイアンツのエースの座をつかんでいる。
昨年秋、戸郷たちの世代を中心とした侍ジャパンがアジアチャンピオンシップを戦った。戸郷自身は出場を免除されたが、同世代の小園、万波中正(日本ハム)、森下翔太(阪神)などが代表入り。彼らは戸郷を必死で追いかけている。
万波が当時、こんなことを語っていた。
「普段は意識することはないんですけど、対戦する時には同級生からは打ちたいなって気持ちになります。WBCに出場した戸郷は素直にすごいなと思いますし、僕らの先を走っているなと思います。僕らの世代では1番なので、追いつき追い越せで頑張りたいなと思います」
同級生から追いかけられる存在となった戸郷が今回、また一歩先を行くかのようにノーヒッターを達成した。おそらく、万波ら同級生たちは改めて戸郷の存在を大きく感じていることだろう。“黄金世代No.1”の男は、交流戦でどんな投球を見せてくれるだろうか。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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