高校野球

【甲子園熱戦レポート│5日目】「何球になっても代えるつもりはなかった」は許すべきではない。球数制限下の現代で求められる高校野球指導者の資質<SLUGGER>

氏原英明

2024.08.11

185球を費やした力投の末にに敗れた鳴門渦潮のエース岡田。1人の投手に頼りきる現代にあるまじき起用法は何も鳴門渦潮に限った話ではなく、徳島県全体の傾向とも言える。 写真:梅月智史(THE DIGEST写真部)

 時代錯誤も甚だしい。

 鳴門渦潮のエース岡田力樹が、早稲田実業を相手に185球で完投の末に敗れた。試合の中盤以降は制球が乱れていたが、それでも指揮官の森恭仁は頑として交代させなかった。

 森監督はいう。

「球数が何球になっても岡田を代えるつもりはなかった」

 1週間500球の球数制限が導入されて3年、甲子園における投手の球数は減少傾向にあった。それが今大会はやや増加している風ではあったが、まさか、これまで最多の154球を遥に超えて185球を投げる投手が登場したことにただただ驚いた。

 もちろん、そこにはチーム事情があるのは理解している。鳴門渦潮はエースで4番の岡田が、まさにチームの大黒柱だった。森がいうには今年の6月までは複数投手の起用を検討していたが、夏前になって「負けられない」とエース岡田1人のチームを作ってきたのだという。徳島県大会では岡田がほぼ1人で投げ抜いて甲子園を決めている。

 森は続ける。
 
「なかなか2番目、3番目(の投手)が140キロを超える投手を揃えるって、公立高校が主体の徳島県では難しいと思うんですよね。子どもがいない中で野球をやってますからね。選手も散らばりますし。人数が多い学校さんと比べると、しんどいですね。負けたらいけないという公式戦で2番手、3番手の投手を出していけるチームは徳島県では少ない」

 この問題の根本は、1チームだけに限らないかもしれない。というのも、徳島県の代表はいつも1人の投手に頼り切りなことが多いからだ。

 これは、県大会の試合数が少ないというのが一因だ。そのため他の投手を登板させる機会がないというのもあるが、1試合の重みが増していき、森監督が言うように「負けられなくなる」のが根底にある。

 高校野球は周知のように、トーナメントで争う。夏の大会の後、すぐにセンバツをかけた秋季大会が始まり、そこから夏のシードがかかる春季大会、そして本番の甲子園大会はすべてトーナメント戦で、思い切って試すことができないのだ。

 事実、近年の徳島代表を見ると、昨年は徳島商のエース森煌誠が2試合連続で完投の末敗退。2戦目は155球の熱投だった。2022年の鳴門は継投したが(1回戦敗退)、21年の阿南光・森山暁生(現中日)は1回戦で162球を投じて敗れている。

 ただ、鳴門のケースも見逃せない。
 
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