高校野球

長すぎる開会式や臨時代走の“悪用”、二部制のチケット販売方式... さらなる改善を求めたい高野連の「夏の甲子園改革」<SLUGGER>

西尾典文

2024.08.20

連日、熱戦が繰り広げられている甲子園。時代の趨勢に合わせてさまざまな改革策を実施しているが、まだできることはありそうだ。写真:THE DIGEST写真部

 8月7日に開幕し、すでに準々決勝まで終えた今年の夏の甲子園。地方大会も含めて、ここ数年大きな話題となっているのが、猛暑の中での開催についての是非だ。甲子園大会期間中も連日最高気温は35度を超えており、試合終盤になると足が攣る選手が出るのがすっかりおなじみになっている。

【動画】今大会屈指の名場面!早実、サヨナラのピンチに内野5人シフトで大社の攻撃を防ぐ

 中継しているテレビでは運動や不要な外出を避けるよう案内が出ているのに、画面の向こうでは炎天下で選手がプレーしていることに対して疑問の声も多く、この時期での開催を見直すべきではないかという意見も聞かれる。

 ただ、そんな声に対して運営側もただ指をくわえて見ているわけではない。昨年からは5回終了時点に10分間のクーリングタイムを設け、また負傷した選手が出た際は、他の選手も全員ベンチに引き上げるように徹底するようになった。

 そして、今年試験的に導入されたのが朝・夕の二部制である。大会第1日から第3日まで気温の高い正午過ぎは避け、午前と夕方に分けて試合を行うようにしたのだ。来年以降、この方式を広げていくかは現時点では未定だが、何とか選手、観客、関係者への負担を減らそうという意図が感じられることは事実である。

 ただこの二部制にも課題が見えたことは確かだ。開会式が行われた大会第1日は第3試合の開始が18時52分で、延長11回のタイブレークにもつれ込む展開となったため、試合終了時間は21時36分となったのだ。この試合を戦った岐阜城北と智弁学園の選手たちは朝8時半から行われた開会式に参加しており、試合終盤には集中力が切れたようなプレーも多かった。この点については運営側も反省すべきだろう。

 そこで改善案としてまず提案したいのが開会式の見直しだ。現在は出場する49の代表校が順番に行進し、さらにその後に選手宣誓や挨拶などを行う形となっている。給水タイムを設け、挨拶の時間を短縮するなどしているものの、それでも炎天下で今のスタイルで行うことによる選手や関係者への負担は相当に大きいことは間違いない。実際、今年も体調不良を訴えた選手がいた。今の開会式のスタイルを貫くのであれば、開会式の日には試合は行わないなどすることも検討すべきではないだろうか。地方大会では実際にそうしている県もあるため、決して不可能な話ではないはずだ。

 また、二部制の試験導入に関連して気になったのが午後の部の空席の多さだ。第3試合の観客数は公式発表によると第1日と第2日が1万人、第3日が1万1千人となっている。この数字はあくまで公式発表であり、実数はもっと少なかったことは明らかだろう。観客は午前の部と午後の部の間に一度球場を出る必要があり、それならもう午前の部だけ見て帰ろうと考えたケースも多かったのではないだろうか。

 ちなみに午前の部と午後の部はチケットが別になっており、多数派ではないかもしれないが、一日を通して見たいという観客にとっては負担が大きくなったことも、午後の部の空席が目立つ要因として考えられそうだ。
 空席が目立つことに関しては、他の問題もある。2018年から前売りで一日通し券が指定席で買える仕組みとなったのは喜ばしいことだが、第1試合だけ見たい観客が球場を去った後は、その席は空席のままとなっているのだ。

 一日通し券だけではなく、試合ごとのバラ売りや、入退出時に何かしらの手順を設けて空席を管理して再度売り出すような仕組みは、現在の技術であればさほど難しいものではないはずだ。そういったやり方をすると「高校野球は金儲けではない」という批判の声も出そうだが、収益を野球振興に使うのであれば問題はないだろう。観客の満足度を高めながら、より効率的に収益を上げる仕組みも検討すべきだろう。

 グラウンド上に目を移すと、暑さ対策によって別の問題が見えたことも事実だ。それが臨時代走についての運用である。臨時代走とは高校野球独自のルールで、死球などで負傷した選手を治療のために一度ベンチに下げ、代わりに前の打順を打っている選手が代走として出場するものである。ちなみに頭部に死球を受けた場合は必ず臨時代走を出す決まりとなっている。

 しかし、今大会では死球ではない形で出塁した投手が体の不調を訴えて臨時代走を送られてベンチに下がりながら、次の回に備えて準備しているシーンが見られた。性善説に立てばこれも仕方ないとなるが、投手を休ませるために悪用することも可能ではないかという声が上がっていた。臨時代走を送れるのは死球による負傷のみなどと、明確な基準を設けることもぜひ検討してもらいたい。

 今大会の開会式の挨拶、選手宣誓では開場100周年ということもあってか、甲子園について「聖地」という言葉がたびたび聞かれた。全国の育成年代の野球選手が目指すべき大きな目標があるということはプラスの面も大きく、何とか甲子園で大会を続けたいという気持ちも理解できる。また近年多くの改善を行っていることは評価すべきだろう。ただ、改善すべきことまだまだあり、来年以降もあらゆる面から大会の運営方法を常に見直し続けてもらうことを望みたい。


文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

【関連記事】【甲子園熱戦レポート│12日目】「何を打ったか分からない」東海大相模の好投手・藤田を粉砕した関東第一の主砲・高橋の「意外すぎる一発」<SLUGGER>
NEXT
PAGE
【動画】今大会屈指の名場面!早実、サヨナラのピンチに内野5人シフトで大社の攻撃を防ぐ

RECOMMENDオススメ情報