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【甲子園熱戦レポート│14日目】無失点のエースを交代させた小牧監督、独断でバントから強行へ切り替えた西村...京都国際の初優勝を呼び込んだ“決断”<SLUGGER>

氏原英明

2024.08.23

0対0で迎えた延長10回に2点をもぎ取った京都国際。追いすがる関東第一を振り切り、京都勢68年ぶりの夏優勝を勝ち取った。写真:産経新聞社

 決断――史上初めて延長タイブレークにもつれた決勝戦は、延長10回に先に2点を先行した京都国際が粘る関東第一を振り切って初優勝を果たした。

【動画】1点差の二死満塁から最後はスライダーで空振り三振! 京都国際が甲子園100周年の夏の頂点に立つ

 2枚のエース級左腕・中崎琉生と西村一毅を擁する京都国際に対し、エース坂井遼を中心に3人の投手で勝ち上がってきた関東第一。投手の継投は昨今の主流だが、一方、試合展開により難しさを孕んでいるのも継投であると言うのもまた事実。0対0のしびれる展開だっただけに、交代期を間違えれば大きな痛手を食う。投手の疲れや相手打線との組み合わせが分かりやすければまだしも、ともに好投していただけにその判断が難しかった。

「本当に今日は負けゲームで、サヨナラ負けを覚悟していた」

 京都国際の小牧憲継監督はそう振り返っているのが、勝負の難しさを物語っている。

 投手を先に交代させたのは関東第一の方だった。先発したのは左腕の畠中鉄心。中3日で調子が良かったこともあって、6回まで引っ張ったが、7回から坂井にスイッチ。この交代はある意味予想されたものだった。これまでの関東第一は、坂井にいつ交代させるかが鍵で、彼の登板が勝利を大きく手繰り寄せてきたからだ。

 畠中は6回まで6安打を許し、いくつもピンチを招いていた。だから、7回からの坂井投入は流れを変える意味でも大成功だった。7、8回を三者凡退。9回のピンチも乗り切ってタイブレークまで持ち込でいたのだった。
 むしろ投手交代が難しかったのは京都国際の方だった。先発した中崎は終盤に向かうにつれて少しずつストライク率が悪くなっていたとはいえ、9回まで4安打しか許していなかった。球数も105球。これだけ好投しているなら、マウンドを2年生に譲るよりも3年生の中崎が最後まで責任を果たすというのは誰もが納得するであろう。だからこそ、決断が難しい。

 しかし、延長10回表、タイブレークに入るタイミングで小牧監督は決断した。

 選んだのは投手ではなく、打者・中崎の交代。タイブレークで無死一、二塁となった延長10回の先頭で回ってきた中崎を代えたのである。そして、代打に起用したのが何と西村だった。

「9回表に点が入らなかったので決断させました。10回は中崎からで、彼はバントが上手くない。それでは得点が入らないなと。無理矢理にでも流れを変える。点を取りに行く意味で思い切って決めました。西村はバントもできるし、打つこともできるし、空気を入れ替えようと考えたんです」

 この大きな決断に、「マウンドからの交代と思っていた」西村も打席の中での臨機応変の決断で応じた。

 関東第一の守備陣が送りバントを成功させまいと何度もプレッシャーをかけてくる中、西村はヒッティングに切り変えた。指揮官のサインではなく自己の決断だ。
 
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「今日はチェンジアップがダメなんで、スライダーで行きます」

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