プロ野球

誰よりもファンを、オリックスを愛した男。T-岡田が引退まで貫いた「記録よりも記憶に残るホームラン」【オリ熱コラム2024】

どら増田

2024.09.29

本塁打王のタイトルを獲得るなど、スラッガーとしてチームを牽引したT-岡田。誰からも愛される好漢でもあった。写真:野口航志(DsStyle)

 今シーズン限りで引退するオリックスのT-岡田が、24日の西武戦に5回から途中出場。第2打席でライトへライナー性のヒットを放つと、9回の第3打席では、ライト5階席に届くホームラン性の特大ファウルを放ち、最後は空振り三振に終わるも超満員の客席からは大きな拍手が贈られた。

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 私は残念ながら当日球場には行けなかったのだが、球場の熱気はテレビ画面越しでも十分に伝わった。現在は他球団に在籍するオリックスOBも多数見守る中、盟友である安達了一とともに執り行われた引退セレモニーでは、大のオリックスファンとして知られるなにわ男子の藤原丈一郎さん、ますだおかだの岡田圭右さんが花束を持って来場。関西ローカル番組の密着企画も絡んでいたが、Tに花束を渡す前に泣き崩れる岡田さんの姿を見て、思わず私も号泣してしまった。

 私がただのファン時代、関東の外野席から岡田さんが「T! 打て!」と叫んでいた場面を何度も見てきたから分かるが、岡田さんの"T愛"は半端なもんじゃない。

 ファンの気持ちを真っ先に察することも多く、この日グラウンドで花束も贈呈したOBの坂口智隆さんが自由契約になった時には、試合後に坂口さんのタオルを持ってライトスタンドまで走り、そのタオルを掲げることで、ファンとともに坂口さんを送り出した。

 T-岡田の"ファン愛"も本物だった。ある年の本拠地最終戦で試合が長引いてしまい、当時は毎年恒例だった試合後の選手ハイタッチ会が中止になったのだが、Tは「ファンの皆さんはこれを楽しみに来られてるのだからやりましょうよ」と、舞台裏で最後まで粘ってくれたこともあった(この件を次の試合で本人にぶつけると「何で知ってるんすか?」と照れくさそうな表情を見せた)。

 またチーム低迷期にファンがフラッグに寄せ書きをした際にも真っ先に反応し、これを受け取る役を買って出てくれたこともあった。私もコロナ禍に入るまでは、シーズン最後のコラムはT-岡田と決めていたので、最終戦に話を聞く機会が多く、いつも「ファンの皆さんには申し訳ない」と話していただけに、昨年のリーグ優勝で行われたビールかけではしゃぐTの写真を見て感慨深いものがあった。
 引退試合には行けないことが分かっていただけに、安達さんの引退会見でT-岡田がサプライズで現れた時、これを逃したらもう会えないと、ロッカールームに向かうTに声をかけて「ありがとうございました」と挨拶ができて安堵した。

 T-岡田を初めてしっかり取材したのは16年の春季キャンプでのこと。私は『ベースボールサミット』という書籍のオリックス版を発刊するにあたって、メインライターと企画などを任せてもらえた。ライター2年目の私にとっては大役だったのだが「軸になる選手はT-岡田でお願いします」とロングインタビューを企画。坂口さんや後藤光尊さんとの深い関係性や、岡田彰布監督時代に言われた「お仕置きの4番」についてなどなど、他ではあまり聞かれることがないであろう質問の数々に快く答えてくれた。

「坂口さんやゴッツさんと一緒に優勝したかった」「今でもお仕置きの4番ですよ」という言葉が今でも頭から離れない。その時に「僕は記録よりも記憶に残るホームランを打ちたいんです」と話してくれたのが印象的で、ドラマチックなホームランの数々は、こんな本人の意識づけから生まれたものなのだと確信した。

 引退試合が終わっても、Tは来シーズンの巻き返しの力に少しでもなれればという思いからチームに帯同している。安達よりもキャリアが長い分、暗黒時代に戻してはならないという思いは人一倍強いはず。岡田監督が退任しても「T-岡田」を名乗り続け、チームの顔の役割も担った。登場曲が流れただけで、京セラドームの空気を一変させるような選手はしばらく出てこないだろう。

 そんなTさんには「お疲れさまでした」より「ありがとうございました」という言葉の方が似合う。次のステージでも「カーニバル」で盛り上げてもらいたい。

取材・文●どら増田

【著者プロフィール】
どらますだ/1973年生まれ。プロ野球では主にオリックスを取材し、週刊ベースボールの他、数々のウェブ媒体でも執筆している。書籍『ベースボールサミット 第9回 特集オリックス・バファローズ』(カンゼン)ではメインライターを務めた。プロレス、格闘技も取材しており、山本由伸と那須川天心の"神童"対談を実現させたことも。

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