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「どの試合も彼にとってはワールドシリーズ第7戦だった」故ピート・ローズが永久追放後もファンから愛された理由<SLUGGER>

出野哲也

2024.10.05

どんな時も手を抜かないことから“チャーリー・ハッスル”の愛称で親しまれたローズ。今も彼に憧れる選手は後を絶たない。(C)Getty Images

  メジャーリーグ史上最多である通算4256安打の記録保持者ピート・ローズが9月30日に83年の生涯を閉じた。野球賭博への関与で1989年に永久追放処分となったため、殿堂入りこそ実現していないものの、まぎれもなくアメリカ球界に名を残す名選手であり、多くの人が悲しみと惜別のメッセージを寄せている。

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 史上最高の三塁手で、フィリーズ時代のチームメイトだったマイク・シュミットは「彼は私を笑わせ、リラックスさせてくれた。試合を楽しむことを教えてくれたのだ。それは私にとって最も必要なアドバイスだった」と感謝。首位打者5回の名打者ウェイド・ボッグスも「この気持ちを表現する言葉が見当たらない。彼は私のアイドルであり友人だった。私はピート・ローズになりたいと思って育ったのだ」と悲しんだ。球界だけでなく、ドナルド・トランプ前大統領も「葬式の前に彼を殿堂入りさせよ」とXに投稿していた。

 日本でも訃報は大きく取り上げられたが、残念ながら否定的なニュアンスの記事が目についた。ここ数年の日本におけるローズのイメージは「イチローの偉業にケチをつける頑固ジジイ」。2016年にイチローが"日米通算"の安打数でローズを抜いた際、建て前だけでも祝福していれば良かったものを「日本の野球は3Aレベルだろ。俺がマイナーで打った427本のヒットもカウントしろ」と反発。今年3月、大谷翔平の通訳が起こした不法賭博騒動でも「俺にも通訳がいれば良かったのに」と厭味をかまして、ますます嫌われ者になっていた。

 しかし、現役時代のローズは嫌われ者どころか、親日家としても知られ、日本で最も人気のあるメジャーリーガーであった。そうした時代を知るファンの多くは、ローズの言動を残念に思うと同時に、彼の業績よりもネガティブな要素の方を強調する記事を嘆かわしく思っているのではないだろうか。
 
 
 永久追放処分となっても、地元出身だったこともあって、ローズはレッズの本拠地シンシナティでは最後まで人気者だった。1963年にメジャーデビュー。特徴的なクラウチング・スタイルから左右にラインドライブを打ち分け、200安打10回、最多安打7回。68、69年には2年連続首位打者となった。

 こうしたバッターとしての才能以上に、ローズはエネルギッシュなプレースタイルで人気を博した。彼自身「才能だけじゃメジャーに上がれなかった。ハッスルプレーこそが俺をメジャーリーガーにして、そこにとどまらせた。それ以外のプレースタイルを俺は知らなかった」と言っていた。元チームメイトのジョー・モーガンいわく「162試合すべて全力プレーだった。どんな試合も、彼にとってはワールドシリーズ第7戦だったんだ」。

 強烈な個性ゆえ、誰からも好かれたわけではなかった。「記録のためにプレーしている」「あのハッスルプレーも計算ずくだ」と陰口を叩かれたり、金に汚いとも言われたりした。だが豪放磊落なイメージに反し、体調管理には人一倍気を配っていた。そうでなければ、あれほど激しいプレーを続けながらも故障がほとんどなく、40歳を超えてレギュラーを張り続けることもできなかっただろう。こと野球に関しては、ローズほど真摯に取り組んだ選手はほとんどいなかった。