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高校野球

トミー・ジョン手術明けの佐藤に高出力の豪腕・石垣を擁しての戦い方――選手の故障のリスクと向き合いながら勝利を目指した健大高崎の挑戦<SLUGGER>

氏原英明

2025.08.13

 青柳監督は説明する。

「(石垣は)出力が高いので故障のリスクがあると言われていました。トレーナーとか病院の先生からもそういう風に言われたので、試合の後半で投げた方がいいじゃないかなと。高校の段階ではあの子の身体には出力がちょっとデカすぎました」

 青柳監督含め、チームがそれだけ慎重になるのは、本来はエースの佐藤の故障によるところが大きい。佐藤は昨春の選抜で獅子奮迅の活躍を見せた。石垣との継投はチームの形だった。

 しかし、佐藤は昨夏の群馬県大会を終えたところで左肘の痛みを覚え、検査の結果、靭帯損傷が発覚、トミー・ジョン手術に至ってしまったのだ。本人は辛いリハビリ期間を余儀なくされたわけだが、チームとしてもこの怪我の影響は少なくなかった。

「僕自身もいろいろ考えるところがありまして。佐藤の怪我から学んだこともある。やっぱり勝つことも大事ですけど、投げすぎてしまうというのは将来のことが大事なんでね。そのために、たくさんの投手を揃えたんです」

 佐藤の極端なインステップは投法が身体に負担がかかりすぎるという指摘はメディアの中でもあったが、投手の故障はどれだけケアしても予想がつかないところがある。しかし、エースを高校生活の間にトミージョン手術に至らせてしまったという事実は、チームにとっては衝撃だったに違いない。
 
 現在もリハビリの渦中である佐藤には30球前後の投球制限があったが、石垣にも80~100球までという制限があった。青柳監督はその中で勝ち抜くと決めていたのだった。

「理想としては試合にリードしている中での終盤の登板。早い段階の登板も、佐藤の登板に制限があるので、そうなっていくと後ろが詰まってしまうというのがありました。でも、そのためにたくさんの投手を育成してきたんですけど、それでも勝ちに導いてやれなかったのは申し訳ないですね」

 怪我のリスクと向き合い、継投を目指した健大高崎の挑戦は早い段階で終焉を迎えた。一方の京都国際は先発の西村一毅が160球完投勝利。西村はストレートの球速を最速で142~143キロにとどめ、変化球も肩や肘の負担の少ないチェンジアップを多投するタイプの投手だ。160球はさすがに投げすぎだと思うが、石垣と比べて出力が高くないため、無理をさせられるというのも事実だった。

 優勝候補の一角・健大高崎が敗れた。

 しかしその戦いは、選手の将来を守りながら勝利を目指した一つの挑戦であったことも忘れてはいけない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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