その考え方が最も鮮明に表れたのが、延長10回の守備だった。1死からソフトバンクは1番の正木智也が中前打で出塁、周東佑京の犠打で走者を二塁へ進めた。続く近藤は申告敬遠。カウントが悪くなったから1打で試合が決まりかねない場面で、DeNAは4番の栗原と勝負することになった。
栗原が放ったのは、右中間深くへの飛球だった。しかし、中堅手の三森大貴がこれを捕球。DeNAは危機をしのいだのだった。記録上は、ただのセンターフライかもしれない。だが、このプレーには守備戦術の意図が表れていた。
一般的に、終盤の1点勝負で二塁に走者がいる場合、外野手は前進守備を敷く選択肢が定石だ。安打で走者が生還するのを防ぐためだ。しかし、この場面でDeNAは外野手を定位置よりやや深い位置に配置していた。つまり、場面だけで守備位置を決めるのではなく、打者の特徴を踏まえて打球の可能性を想定していたのである。
仮に定石どおりの前進守備を選択していれば、栗原の打球は頭上を越え、右中間を破っていた可能性がある。そうなれば、複数の走者が生還する展開も考えられた。もちろん、深い守備位置にもリスクはある。前方に落ちる打球への対応は難しくなる。それでもDeNAは、栗原の打球傾向を踏まえ、長打を防ぐことを優先した。その判断が、窮地を救ったのだった。
野球の守備位置をめぐっては、場面を優先するのか、打者の特徴を優先するのかという議論がある。どちらか一方が常に正しいわけではない。重要なのは、その場面で何を防ぎ、どのリスクを引き受けるのかを明確にすることだ。
DeNAの守備には、その考え方が表れていた。従来のセオリーに従うのではなく、打者の傾向を基に、状況に応じた最適解を探る。投手の持ち味を生かしながら、守備陣形によって失点の可能性を抑えるというわけである。クライマックスシリーズ6連勝という結果は、勢いだけでは説明できない。DeNAは、攻撃力に加えて、こうした効率的な野球を積み重ねてきたのである。
延長11回、ソフトバンクに勝ち越しを許した場面では、DeNAは前進守備の頭を越され、敗北を喫した。だが、相川亮二監督は、決勝点を失ったプレーだけを敗因として挙げることはなかった。
「1回になんとか1点を取ったり崩せていたりしたら、違った展開になっていたと思う」
相川監督が振り返ったのは、1回裏の攻撃だった。先頭の度会隆輝が死球で出塁し、牧秀悟が三遊間を破る。1死後には筒香も左前打を放ち、先制の好機をつくった。しかし、梶原昂希が併殺打に倒れ、得点には至らなかった。
振り返れば、そこが試合の分岐点だった可能性はある。ソフトバンクの先発・上沢直之が立ち上がりに見せた隙を突きながら、得点につなげられなかった。接戦をものにするためには、限られた好機を確実に得点へ結びつける必要がある。その難しさを、相川監督も感じていたのだろう。
日本シリーズは、相手の弱点を突くだけでなく、自分たちの強みをどこまで発揮できるかを問われる舞台でもある。第1戦のDeNAは、打線の爆発力だけではない、守備の緻密さと投手を支える戦術を示した。ソフトバンクを延長戦まで追い詰めた背景には、クライマックスシリーズを勝ち抜いてきた理由が確かに存在していた。
それでも、最後に勝利を手にしたのはソフトバンクだった。好機を逃さず、終盤に勝負を決める。その強さもまた、王者のものだった。
DeNAの野球は、勢いだけではない。緻密な準備と状況判断を積み重ね、接戦を勝ち抜くための仕組みがある。第1戦は敗れたものの、DeNAが見せた野球には、王者ソフトバンクに対抗するための確かな手応えがあった。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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一般的に、終盤の1点勝負で二塁に走者がいる場合、外野手は前進守備を敷く選択肢が定石だ。安打で走者が生還するのを防ぐためだ。しかし、この場面でDeNAは外野手を定位置よりやや深い位置に配置していた。つまり、場面だけで守備位置を決めるのではなく、打者の特徴を踏まえて打球の可能性を想定していたのである。
仮に定石どおりの前進守備を選択していれば、栗原の打球は頭上を越え、右中間を破っていた可能性がある。そうなれば、複数の走者が生還する展開も考えられた。もちろん、深い守備位置にもリスクはある。前方に落ちる打球への対応は難しくなる。それでもDeNAは、栗原の打球傾向を踏まえ、長打を防ぐことを優先した。その判断が、窮地を救ったのだった。
野球の守備位置をめぐっては、場面を優先するのか、打者の特徴を優先するのかという議論がある。どちらか一方が常に正しいわけではない。重要なのは、その場面で何を防ぎ、どのリスクを引き受けるのかを明確にすることだ。
DeNAの守備には、その考え方が表れていた。従来のセオリーに従うのではなく、打者の傾向を基に、状況に応じた最適解を探る。投手の持ち味を生かしながら、守備陣形によって失点の可能性を抑えるというわけである。クライマックスシリーズ6連勝という結果は、勢いだけでは説明できない。DeNAは、攻撃力に加えて、こうした効率的な野球を積み重ねてきたのである。
延長11回、ソフトバンクに勝ち越しを許した場面では、DeNAは前進守備の頭を越され、敗北を喫した。だが、相川亮二監督は、決勝点を失ったプレーだけを敗因として挙げることはなかった。
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相川監督が振り返ったのは、1回裏の攻撃だった。先頭の度会隆輝が死球で出塁し、牧秀悟が三遊間を破る。1死後には筒香も左前打を放ち、先制の好機をつくった。しかし、梶原昂希が併殺打に倒れ、得点には至らなかった。
振り返れば、そこが試合の分岐点だった可能性はある。ソフトバンクの先発・上沢直之が立ち上がりに見せた隙を突きながら、得点につなげられなかった。接戦をものにするためには、限られた好機を確実に得点へ結びつける必要がある。その難しさを、相川監督も感じていたのだろう。
日本シリーズは、相手の弱点を突くだけでなく、自分たちの強みをどこまで発揮できるかを問われる舞台でもある。第1戦のDeNAは、打線の爆発力だけではない、守備の緻密さと投手を支える戦術を示した。ソフトバンクを延長戦まで追い詰めた背景には、クライマックスシリーズを勝ち抜いてきた理由が確かに存在していた。
それでも、最後に勝利を手にしたのはソフトバンクだった。好機を逃さず、終盤に勝負を決める。その強さもまた、王者のものだった。
DeNAの野球は、勢いだけではない。緻密な準備と状況判断を積み重ね、接戦を勝ち抜くための仕組みがある。第1戦は敗れたものの、DeNAが見せた野球には、王者ソフトバンクに対抗するための確かな手応えがあった。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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