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MLB

【2010年代MLB新語辞典:前編】WAR、スタットキャスト、タンキング……この10年で生まれた新たな概念を解説!

出野哲也

2020.04.10

 タンキングを用いて16年の世界一への礎を作ったとみられるカブス。その中核となったクリス・ブライアントは13年の全体2位指名選手だ。(C)Getty Images

 タンキングを用いて16年の世界一への礎を作ったとみられるカブス。その中核となったクリス・ブライアントは13年の全体2位指名選手だ。(C)Getty Images

▼トラックマン【Trackman】
 ドップラーライダーと呼ばれる高性能のレーダー技術を用いて、グラウンド上で起こるすべてのアクションを計測するシステム。MLB30球団の全本拠地球場に設置されていて、スタットキャスト(次項参照)にデータを提供している。
 
 もともと軍事目的に開発された技術を応用したもので、スポーツでの利用はゴルフが先だった。当初スタットキャストがデータとして利用していたPitch f/xは高速カメラだったが、トラックマンはレーダーを使って計測しているため、より正確なデータが採集できる。マイナーリーグや日本の球場にも設置が進んでいる。

▼スタットキャスト【STATCAST】
 レーダー技術のトラックマン(前項参照)と高性能カメラによって得られたデータをもとに、プレーを詳細に分析する、最新鋭のシステム。15年から公開され、当初はトラックマンではなくPitch f/xのデータを利用していたが、17年からトラックマンへ完全に移行した。近年話題のスピンレート(投球の回転数)や打球速度/角度、バレル(フライボール革命の項を参照)、ポップタイム(捕球から二塁到達までの時間)などはスタットキャストの数字が元になっていて、ウェブサイトで数値が参照できる。

 かつては選手たちが新しい変化球を覚えたり、打撃フォームを改造したりする際は、自分自身の感覚とビデオ映像を照らし合わせるくらいしか手段がなかった。だが、スタットキャストによって具体的な数字を確認できるようになったおかげで、効果的な練習を積むことが可能になった。球団側もこうしたデータを参考にして、向上の余地があると判断した選手を獲得しているほか、試合中に回転数の変化を参照して投手交代のタイミングを決めるなど、采配にも影響を与えている。
 
 守備でも打球の捕球難易度などが瞬時に計算され、本当のファインプレーと「そのように見えるプレー」が区別できるようになったので、ゴールドグラブの投票なども信用度が高まるなど、あらゆる点で球界に変革をもたらしている。
 
▼タンキング【Tanking】
 ドラフト制度を実施しているアメリカプロスポーツで、しばしば用いられるチーム再建法。もともとはボクシング用語で「わざと負けること」を意味する。チームが低迷期に入り、しばらく上位争いに食い込めそうもないと判断した場合に、再建を促進するために行なう。
 
 具体的な手法としてはまず高年俸の主力選手をトレードに出し、交換要員として有望株を獲得すると同時に年俸総額を引き下げる。その結果(半ば意図的に)下位に下がると、ウェーバー順位が上がってドラフトでより良い素材を指名できるようになる。こうして獲得した若手の成長を待ち、3~4年単位で再上昇を目指すもの。近年では16年のカブス、17年のアストロズがタンキングに成功して世界一の下地を作ったと見られている。
 
 しかし、戦略とはいえ、わざと戦力を落とすのはプロスポーツの本来あるべき姿ではなく、ファン感情も害するとあって防止策の導入を唱える声も少なくない。ただし、ドラフト上位指名選手が即戦力として活躍するNFLやNBAとは違い、MLBでは数年待たなければならず、必ずしもタンキングが有効な再建策とも言いきれない。

文●出野哲也

※『スラッガー』2020年3月号より転載

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