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MLB

【2010年代MLB新語辞典:後編】フレーミング、オープナー、ピッチトンネル……この10年で生まれた新たな概念を解説!

出野哲也

2020.04.11

フライボール革命の代表的な成功例の1人であるマルティネス。14年までは4年間で47本塁打しか打てなかったが、15年以降の5年間では184本塁打を放っている。(C)Getty Images

フライボール革命の代表的な成功例の1人であるマルティネス。14年までは4年間で47本塁打しか打てなかったが、15年以降の5年間では184本塁打を放っている。(C)Getty Images

 2010年代のMLBでは、新たな概念が多く生まれた。この『2010年代MLB新語辞典』では、10年代に生まれた用語のうち、重要なものを厳選して解説する。

▼『ビッグデータ・ベースボール』/『The MVP Machine』【Big Data Baseball/The MVP Machine】
『ビッグデータ・ベースボール』は、ピッツバーグの新聞記者だったトラビス・ソーチックが15年に刊行した書籍。パイレーツがデータ分析の結果をもとに、20年連続勝率5割以下の低迷期を抜け出すまでの過程を記録したもの。フレーミングの利点、守備シフトの重要性などに焦点が当てられており、また投球回数制限の是非や、分析部門のスタッフと現場指導者の融合といった点にも紙幅が割かれている。16年には邦訳も出版された。
 
 ソーチックは続いて19年、セイバーメトリクス系ライターのベン・リンドバーグとの共著で『The MVP Machine』を刊行。『ビッグデータ・ベースボール』を超える大きな反響を巻き起こした。内容はアストロズ、トレバー・バウアー、ドライブライン・ベースボールの3者を中心に、10年代に巻き起こった球界における選手育成システムの急激な変貌を描き出したもので、10年代版の『マネー・ボール』的存在として高く評価された。
 
▼フレーミング【Framing】
 ストライクゾーンぎりぎりのボールを、捕手がストライクと判定させる技術のこと。1球のボール/ストライクの判定はそれだけで0.13点の違いを生み出し、フレーミングに最も優れた捕手と最も劣っている捕手では、年間にして約40点もの差が出ると言われている。

『ベースボール・プロスペクタス(BP)』のスタッフだったマイク・ファスト(現ブレーブス特別アシスタントGM)が11年に発表した調査研究で「毎年安定した数字が出ている、信頼に足る統計で個々の捕手に特有の技能」と実証され、以後広く認識されるようになった。BPのほか、スタットコーナーというウェブサイトや、現在ではスタットキャストでもフレーミングの数値を発表している。
 
▼守備シフト【Shift】
 守備位置についている野手を、対戦する打者の特性に合わせて通常のポジションとは異なる位置に配置する作戦。主として引っ張り傾向の強い打者に対して用いられ、左打者の場合は三塁手が一塁と二塁の後方に回るのが一般的。外野に4人配置する変型などもあり、極端な場合は内野手4人全員を二塁ベースの右側で守らせたケースもある。
 
 古くは1920年代から見られた作戦で、40~50年代の強打者テッド・ウィリアムズにも〝ウィリアムズ・シフト〞が敷かれた例はあるが、ほぼすべてのチームが日常的に使うようになったのは10年代になってからである。19年は過去最多となる4万6758回のシフトが敷かれ、パドレス(±0)とヤンキース(-6)を除く全球団がシフト実行時に失点を防いでいて、その効果が証明されている。

▼フライボール革命【Flyball Revolution】
 ボールの下を叩いて意識的にフライを上げるような打ち方をすることで、打撃成績の向上を試みるアプローチと、それがMLB全体に及ぼした影響のことを指す。
 
 フライはヒットになる確率こそ低いが、その代わり長打になる確率はライナーよりも高いことが統計的に裏付けられている。スタットキャストの数値を分析したところ、長打を打つのに適した打球角度(26~30度)と速度(98マイル以上)が判明(この数値はバレルと呼ばれる)し、この数値を念頭に置いて練習を積む打者が急増した。JD・マルティネス(レッドソックス)、ジャスティン・ターナー(ドジャース)らが代表的な成功例として挙げられる。
 
 投手もこの動きに対抗し、カーブなどのアッパースウィングでは対処しづらい球種が見直された。その結果、本塁打と三振は年を追って増えており、試合が単調になって面白みが減少したと嘆く声が聞かれるのも事実である。
 

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