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プロ野球

鷹の打撃職人・長谷川勇也を襲ったまさかのコロナ禍。試練を乗り越え職人魂を見せられるか

喜瀬雅則

2020.08.14

 長谷川がその真価を発揮したのは、昨秋のクライマックスシリーズでのこと。レギュラーシーズン2位のソフトバンクはファーストステージで楽天を下してファイナルステージへ進出。リーグ優勝した西武には1勝のアドバンテージがある。だからこそ、初戦を取って1勝1敗のタイに持ち込んでおくことが重要になってくる。

 その大事な初戦、1点ビハインドの8回2死一、三塁。内川聖一の代打に指名されたのが、長谷川だった。通算2171安打を誇る現役最高のヒットマンに代わっての、勝負所での打席。工藤公康監督の勝負手は、シリーズの行方を長谷川のバットに託したのに等しい。

 この時、マウンドにいたのは、西武の4番手・平良海馬。この時19歳の若き右腕は、16歳年上のベテランに対し、ひたすら剛速球で押してきた。152キロ、153キロ、153キロ、153キロ。カウント2-2までの4球、長谷川のバットは動かなかった。そして5球目、155キロ。平良のこの日最速のストレートを、長谷川は捉えた。小フライがレフトの前で跳ねて同点タイムリーに。この一打で動揺したか、平良が次打者グラシアルに投じた初球はワイルドピッチになった。三塁走者の周東佑京が生還して勝ち越し。初戦をものにしたソフトバンクは無傷の4連勝で日本シリーズ進出を決めた。
 
「無心になっていたから、何も分からないです」その勝負強さに誰もがうなった長谷川の、試合後の第一声がこれだった。「スピードに対応できたから?」と聞いてみたが、返ってきた答えは「それも、ホントに無心です」。そこに長谷川らしさが詰まっていた。研ぎ澄まされた集中力が、すべてを凌駕してしまう。「ゾーン」というのだろう。邪念が消える。投球に集中する。その結果に過ぎない。職人気質の塊のような男だからこその境地なのだろう。

 そんなストイックな男だからこそ、この一報が信じられなかった。8月1日、長谷川がPCR検査で新型コロナウイルスの陽性反応を示したという。この時は背中を痛めて二軍調整中だった。そんな時に、夜の街に繰り出したりするような男ではない。だからこそ、ホークスファンも、番記者も、そしてチームメイトも首脳陣も、皆一様に驚きを隠せなかった。

 あの長谷川のことだ。きっと、チームに迷惑をかけてしまったと己をを責めているだろう。しかし、慌てなくていい。シーズンは、まだ3分の1を終えたに過ぎない。万全の態勢を整えて、再び一軍へ戻ってくればいい。取り返すだけの時間も、試合も、まだたっぷりと残されている。
 
 コロナ禍という“試練”を乗り越えることで、長谷川はきっとさらに強くなる。彼がそういう「たくましさ」を持っていることは、誰もが知っている。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)

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