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プロ野球

内川聖一の退団報道で思い出す「千両役者の大仕事」。ソフトバンク、“秋の風物詩”を根底から変えた男

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2020.10.29

 そして、この年の日本シリーズは“古巣”DeNAベイスターズ。ソフトバンクはセ・リーグ3位からの下克上を狙うDeNAに3連勝して王手をかけたが、その後は連敗で本拠地での第6戦を迎えた。そしてこの試合も9回まで2対3とリードを許す展開となり、場内には「この試合を落としたら、DeNAの勢いにやられるのでは……」という空気が漂っていた。しかし、ここで“仕事人”が最高のバッティングを見せつける。

 1死後に打席に立った内川は、カウント1―1から山崎康晃のインコースのツーシームを完璧に捉え、起死回生の同点アーチを左翼席に叩き込んだのだ。割れんばかりの歓声がヤフオクドームにこだまする。古巣の希望を完璧に砕いたその一撃の勢いそのまま、ソフトバンクは延長11回にサヨナラ勝ちを収めて日本一を達成した。

 ヒーローインタビューで工藤公康監督が内川に向けた「最高の男です!」との言葉は、すべての“ファン”を代表したかのようだった。そして18年のCSファイナルは打率.455、1本塁打、3打点。昨年のCSファーストステージも2本塁打、4打点でチームの敗退危機を救う活躍。常勝軍団の大事な場面では、内川のバットが本当によく振れていた。
 
 振り返れば、内川が加入する前のホークスは、レギュラーシーズンで勝ってもポストシーズンでは勝てない時期が続き、秋に負ける姿がある種の“風物詩”になっていた。しかし内川が加入してから、その言葉の意味は完全に変わった。

 レギュラーシーズンも強いし、“秋”のポストシーズンではもっと強い。11年以降のソフトバンクはリーグ優勝したシーズン4回はすべて日本一になっているし、CSでは敗退したのは12年と16年だけ。過去2年はリーグ2位から日本一になるなど、「秋に強い」のがソフトバンクの代名詞になった感もある。

 内川は以前、こんなことを言っていた。

「短期決戦というのは『どれだけ打ったか』じゃなく、『どこで打ったか』」。

 おそらく、ホークスファンの脳裏に焼き付いている内川聖一という選手の姿は、本当に打ってほしい時に最高の活躍をしてくれる「頼りになる仕事人」の“ウッチー”ではないだろうか。もし本当に彼の福岡でのキャリアが終わることになったとしても、きっと最後には感謝、感動の拍手と声援が送られるに違いない。

文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
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