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プロ野球

“阪急身売り”に匹敵する衝撃――00年代の韓国球界をリードしたSKがまさかの売却

室井昌也

2021.01.30

 SKはそれまでの「野球興行」主体の球団運営ではなく、スポーツとエンターテインメントを併せた造語、「スポテインメント」を理念に掲げた。09年には外野席にサムギョプサルなどを焼きながら試合観戦できる屋根付きの座席『バーベキューゾーン』を設置するなど、球場のボールパーク化に積極的に取り組んだ。ちなみにこの座席のスポンサーが、今回SKを買収した新世界グループが運営する大手スーパーマーケット・イーマートだ。また、球場内には『ミニSL』や子供向けの遊戯施設を備えるなど、アジア球界でいち早く「野球以外も楽しめる野球場」を作り出し、日本の球団も視察に訪れるほどだった。

 SK球団を保有するSKテレコムは球団売却後について、「アマチュアスポーツの底辺拡大と国内のスポーツのグローバル競争力強化を通して、『韓国のスポーツ育成支援』に寄与する」とした。「地域密着」と「野球ファン」を対象にしたプロ野球ビジネスは役割を終えたと考え、今後はスポーツを通しての国外への発信力強化を目指すようだ。

 一方の新世界グループは、球団買収の理由に「プロ野球はネットとリアルの融合が進み、ファン層がネット通販市場のコア層と一致。実店舗とネットショップを展開する中で既存顧客と野球ファンによる相乗効果が大きいこと」を挙げた。韓国の野球ファンの中心となる世代は20~30代。韓国代表が金メダルを獲得した08年の北京オリンピック、準優勝となった翌09年の第2回WBCを見て、野球に関心を持った世代が今の野球人気を支えている。
 
 今回の買収額は1352億8000万ウォン(約127億円)と伝えられている。1000億ウォンが株式で、352億8000万ウォンはファーム施設などの資産だ。比較的最近のケースであるソフトバンクのダイエー買収(球団50億円、興行権150億円)や、DeNAのベイスターズ買収(65億円)と比べてもかなりの高値となる。

 ソフトバンクとDeNAの場合、「ホークス」、「ベイスターズ」というチーム名やユニフォーム、球団歌などは、ほとんど変えることなく受け継いだ。一方、新世界グループは本拠地と現場、フロントはSKを継承するとしたが、韓国の場合、親会社の企業ロゴなどが球団の意匠にも大きく反映されるため、これまでとはガラリと変わる可能性がある。例えばかつてSKは親会社のシンボルカラー変更に合わせて、ユニフォームを青から赤に変えたことがあるほどだ。

 韓国球界に大きな衝撃を与えた今回の球団買収。そこには若い世代が野球ファンの中心であるという点や、企業の思惑が球団運営に大きく反映されることなど、日本とは違った韓国の特徴が表れている。

取材・文●室井昌也(韓国プロ野球の伝え手)

【著者プロフィール】
むろい・まさや/1972年、東京生まれ。韓国プロ野球の伝え手として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりは、日本のメディアや球団などでも反映されている。
 

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