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プロ野球

【氏原英明の本音で勝負!】出場激減で成長の機会を奪われた根尾昂。一貫性に欠ける中日首脳陣の方針<SLUGGER>

氏原英明

2021.07.01

 中日首脳陣の育成方針には、オリックスの中嶋監督のような粘り強い起用もなければ、広島のように結果が出なければ二軍、出れば一軍という明快さもない。

 今、根尾が失っているのは、一軍・二軍を問わず打席での経験だ。各チームの他のプロスペクト(若手有望株)と比較しても、その差は顕著になりつつある。

 たとえば、楽天の黒川史陽は一軍で66打席、二軍では132打席を経験していて、二軍では打率は.353をマークしている。彼も小園と同じように開幕は二軍スタート。4月中旬に一軍に昇格したが、結果を残せず5月19日に降格、30日にまた昇格して、その後は一軍にとどまっている。

 2019年夏、履正社高が全国制覇を果たした時の主砲・小深田大地(DeNA)はファームで191打席を経験している。同じくDeNAで19年のドラフト1位指名で入団したショートストップの森敬斗は257打席に立っている。

 そもそも、今年のキャンプがスタートした時点での根尾のチャレンジは「京田陽太との正遊撃手争いに勝つ」ことだった。しかし、守備の安定感で上回る京田に敗れた。それなら、ファームで守備を鍛え直しても良かったはずだが、首脳陣は一軍での外野起用を選択。打席での非凡なセンスに価値を見出したからだろう。5月4日のDeNA戦では、プロ初本塁打を満塁アーチで飾った。
 
 だが、調子を落とすとベンチを温めるようになった。

 与田采配の辻褄が合わないのは、京田と競わせながら敗北したにもかかわらず、一軍に起き続けている上、期待しているはずの打席数を経験させていないところだ。

 野球選手を成長させるのは、記憶力と2つの“そうぞう力”だ。“そうぞう”とは「想像」と「創造」のことである。

 選手が成長していく上で重要になるのは、「打てた」「打てなかった」という記憶だ。その記憶をもとに課題を自らに課し、どのように打てるようになっていくかを「想像」して、打者としてのイメージを「創造」するのだ。

 記憶があって反省が生まれ、そこから人は成長していく。

 しかし、今の根尾は最初の部分が圧倒的に欠けている。打席に立つこと自体が少ないので、反省も、そこから自分をどう作り上げていくかのイメージもできない。成長過程を踏んでいくべき時に、この経験数の少なさは将来への不安を増すことにしかならない。

「彼がこれまで培ってきたことと、プロに入ってまったく違うことをさせてしまうのは良くないと思います。(彼がどのポジションをやるか)本人の意思を尊重したいと思っています。根尾くんが一番、プロ野球で活躍できる"適所"というのをわれわれは探していかなければいけない」

 ドラフト直後に語っていたこの言葉を、与田監督はもう一度振り返ってみるべきではないだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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