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高校野球

エースを立ち直らせ、打っては決勝弾。「グラウンドの指揮官」として躍動した京都国際・中川<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.20

 京都国際の森下は不安定だったが、前橋育英打線も有利なカウントにかかわらず、どこか追い込まれているような立ち居振る舞いになってしまっていた。小牧監督は「バッティングは感覚がなくなっているフシが見えた」と話しているが、これは両チームに言えることだった。

 こうなってくると、試合の中で修正するしかないのだが、そこでグラウンドを外から見ているかのように落ち着いた振る舞いを見せたのが京都国際の捕手・中川だった。まず、立ち上がりがイマイチだった先発の森下にはこうアドバイスを送ったという。

「森下は体が開き気味になっていたので、軸を意識するようにアドバイスしました。しっかりためることを言いました。よく投げてくれたと思います」

 2回以降、サウスポーの森下が立ち直ったのは、主軸に左打者が並ぶ前橋育英と対峙するために非常に重要だった。カットボール、スライダーを駆使する組み立てで牛耳っていた。

 そして、打撃の方でも中川は一発で結果を出した。

 前橋育英の先発・外丸東眞はストレートとスライダーをコーナーに投げ分け、テンポも良かったが、そんな投手に対し、浮いたスライダーを一閃。左翼スタンドへ放り込んだ。この時の打席のアプローチがまた素晴らしい。
 
「外を中心に投げてくるだろうなというのは思っていて、スライダーに張っていました。思ったよりストレートも投げてきて戸惑ったんですけど、最後はスライダーが浮いたところを打つことができました。少しこすったので、入るかなと思いましたけど、森下を助けられる一本を打てて良かった」

 小牧監督は狙い球を指示をしているわけではない。試合の中で修正を選手たちに求めているが、中川が最初からスライダーを狙いに打席に入り、その中で、唯一の失投を仕留めたのだ。千両役者とも言える一発だった。
 
 センバツにも出場した京都国際はエースの森下や1番の武田侑大など2年生が主力に多い。その中でチームを引っ張る3年生の中川は「グラウンド上の監督の役割」と小牧監督の信頼も大きい。

「2年生が主体のチームと言われて悔しい気持ちがある。センバツは甲子園に出場することが目標だった。夏は勝つことは目標。まだ1勝しかしていなので、満足はしていないです。もっと打線が森下を助けないといけないと思う」

 指揮官のように語る中川。次戦もキープレーヤーとなるはずだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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