ア・リーグのさるスカウトがこんなことを話していた。
「筒香の守備力を問う人もいるみたいですけど、それはチームのやり方によって、大きく変わります。例えば、うちには、守備範囲の広いセンターがいます。右翼もうまいです。メジャーはご存知のように、ポジショニングを極端に守りますから、右中間と左中間はその二人に任せて、筒香にはレフト線だけを守っといてくれ、ということもできるんです。また逆に、バッティングにしても、筒香、そして秋山もですが、広角に打ち分けることができるので、今のポジショニングを打ち破ってくれます。つまり、どういう使い方をするかで変わってくると思います」
メジャーリーグにはヤンキースやドジャースのようなビッグクラブもあれば、そうでないチームもある。小規模クラブで上位にいるチームは、どこかで綿密な戦略が練られていて、「Right Position(選手の正しい使い方)」に重きをおくことで弱点を補い、勝利につなげている。
日本の野球ファンやOBの中には、日本時代のままに活躍していないと「成功」と感じない人が多いと感じるが、メジャーでの「成功」とは多種多様である。
アメリカンドリームとは、一つ一つ、どれもが、スーパースターを指すわけではない。黒子役に徹し、そこに存在するだけで光り輝くようなプレーヤーはいるし、たくさんの役回りをこなしながら何球団も渡り悪くようないぶし銀だって存在する。
どのような立場のプレーヤーも、立派なアメリカンドリームとして認識されるのだ。
もし、日本人の多くが「イチロー並の活躍」だけが「メジャーリーグでの成功」と言ってしまうなら、それは厳しいかもしれない。しかし、多くの日本人なら知っているはずだ。
マイナー契約から這い上がり、ワールドシリーズで勝負を決める送りバントを決めた田口壮という選手をーー。
同じくマイナー契約、それも5万ドルというチープな契約からメジャー契約を勝ち取り、オールスタープレーヤーまで上り詰めた斎藤隆というピッチャーをーー。
ポスティングにもかかわらず、入団テストを受ける形となりながらもアメリカに渡り、実働6年間で7球団を渡り歩き、ワールドシリーズにも出場した青木宣親という安打製造機をーー。
移籍当時、日本に残っていても、彼らはそれなりの立ち位置で活躍できたはずだ。しかし、一歩踏み出さなければ生まれない景色があるというのも、また事実なのだ。彼らに挑戦する心があったからこそ、そうした結果が生まれた。
秋山、筒香、菊池の3人は、現在の日本球界では指折りの職人だと思う。約束されたスタメンを勝ち取る契約を結べるかは分からない。しかし、3人には確かな腕がある。
秋山は守備から出場しての打席がメジャー初打席になるかもしれない。筒香は劣勢の試合展開から流れを変えるピンチヒッターが初打席になるかもしれない。菊池は守備だけの出場に限定されるかもしれない。それでも、活躍の場を見つけることができれば「メジャーリーガー」だ。
さまざまな「Right Position」で力を発揮する日本人メジャーリーガーがいてもいいのだ。彼らが活躍をすることで、日本人の思考が変わってくれればと切に願う。
「脚」でメジャーに挑戦するのだと西川遥輝(日本ハム)が語ってもいい、「出塁率と盗塁」で勝負するのだと山田哲人(ヤクルト)が海の向こうを夢見てもいいのである。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
「筒香の守備力を問う人もいるみたいですけど、それはチームのやり方によって、大きく変わります。例えば、うちには、守備範囲の広いセンターがいます。右翼もうまいです。メジャーはご存知のように、ポジショニングを極端に守りますから、右中間と左中間はその二人に任せて、筒香にはレフト線だけを守っといてくれ、ということもできるんです。また逆に、バッティングにしても、筒香、そして秋山もですが、広角に打ち分けることができるので、今のポジショニングを打ち破ってくれます。つまり、どういう使い方をするかで変わってくると思います」
メジャーリーグにはヤンキースやドジャースのようなビッグクラブもあれば、そうでないチームもある。小規模クラブで上位にいるチームは、どこかで綿密な戦略が練られていて、「Right Position(選手の正しい使い方)」に重きをおくことで弱点を補い、勝利につなげている。
日本の野球ファンやOBの中には、日本時代のままに活躍していないと「成功」と感じない人が多いと感じるが、メジャーでの「成功」とは多種多様である。
アメリカンドリームとは、一つ一つ、どれもが、スーパースターを指すわけではない。黒子役に徹し、そこに存在するだけで光り輝くようなプレーヤーはいるし、たくさんの役回りをこなしながら何球団も渡り悪くようないぶし銀だって存在する。
どのような立場のプレーヤーも、立派なアメリカンドリームとして認識されるのだ。
もし、日本人の多くが「イチロー並の活躍」だけが「メジャーリーグでの成功」と言ってしまうなら、それは厳しいかもしれない。しかし、多くの日本人なら知っているはずだ。
マイナー契約から這い上がり、ワールドシリーズで勝負を決める送りバントを決めた田口壮という選手をーー。
同じくマイナー契約、それも5万ドルというチープな契約からメジャー契約を勝ち取り、オールスタープレーヤーまで上り詰めた斎藤隆というピッチャーをーー。
ポスティングにもかかわらず、入団テストを受ける形となりながらもアメリカに渡り、実働6年間で7球団を渡り歩き、ワールドシリーズにも出場した青木宣親という安打製造機をーー。
移籍当時、日本に残っていても、彼らはそれなりの立ち位置で活躍できたはずだ。しかし、一歩踏み出さなければ生まれない景色があるというのも、また事実なのだ。彼らに挑戦する心があったからこそ、そうした結果が生まれた。
秋山、筒香、菊池の3人は、現在の日本球界では指折りの職人だと思う。約束されたスタメンを勝ち取る契約を結べるかは分からない。しかし、3人には確かな腕がある。
秋山は守備から出場しての打席がメジャー初打席になるかもしれない。筒香は劣勢の試合展開から流れを変えるピンチヒッターが初打席になるかもしれない。菊池は守備だけの出場に限定されるかもしれない。それでも、活躍の場を見つけることができれば「メジャーリーガー」だ。
さまざまな「Right Position」で力を発揮する日本人メジャーリーガーがいてもいいのだ。彼らが活躍をすることで、日本人の思考が変わってくれればと切に願う。
「脚」でメジャーに挑戦するのだと西川遥輝(日本ハム)が語ってもいい、「出塁率と盗塁」で勝負するのだと山田哲人(ヤクルト)が海の向こうを夢見てもいいのである。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。