そして、ドラフト１位で日本ハムに入団。

　春季キャンプでは一軍のメンバーたちと練習する機会に恵まれた。高校時代から続けている独自のトレーニングをプロに入ってからも継続し、4月10日にようやく初登板の声がかかったのだった。

　３人をピシャリとはいかなかったものの、達はこの試合で高校時代とはまた異なった姿を見せた。

　まず、身体つきが違っていた。194センチと長身の達は、高校時代はどうしてもヒョロっとして見えた。ところが、この時はそういう感じではなかった。体重は高校時代の87キロから94キロまで増えたという。

　また、打者との対峙の仕方も思考が変わった。試合後に語った「ファウルを取れた」というのはまさに大きな変化で、高校時代までは持っていなかった考えだった。

　高校時代は金属バットが相手ということもあり、可能な限り空振りを狙っていた。しかし、「ファウルも空振りもストライクを稼げる」と思考が変わり、力でねじ伏せるということはしなくなった。

　高校時代はシュート回転する癖があったストレートは、今はどちらかというと「まっスラ気味」。中山から最後に三振を奪った球種はスライダーで、こちらも高校時代はそれほど決め球として使っていなかった。

「意識づけは大事なんやなと思いました。見逃されるかと思いましたが、プロでは振ってくるんやなと。手応えを感じた１球でもありました」
  　二軍でのプロ初登板を１回無失点は、上々の滑り出しと言えるだろう。

　しかし、本人に言わせれば、１年目の目標は身体づくりにあるという。同日に佐々木が完全試合を達成したことを聞くと、その思いはますます強くなったという。

「佐々木投手が高校時代は無理をしてこなかったことが完全試合につながったという記事を見ました。なるほどなって思ったし、僕自身も長く野球をやりたい。今年１勝できたらいいなと思いますけど、何十年と野球をやっていきたいので、そのための身体を作っていきたい」。

　達と佐々木は２歳違い。高校時代の達は「僕とはタイプが違うので」とそれほど佐々木のことを意識していなかったが、佐々木の完全試合達成と同じ日にプロデビューしたことで、新たな因縁が生まれたように思える。

　佐々木の快挙達成より前に、日本ハムの二軍はすでに試合を終えていた。鎌ヶ谷の日本ハムファンの多くは、帰途に就きながら同じ千葉県で果たされた佐々木の偉業を見守ったことだろう。筆者もそうだった。

　帰りのバスに揺られながら、「佐々木と達が投げ合う日が来れば、きっと今日のことを思い出すのだろうな」と考えた。その日が来るのがとても楽しみになった。

取材・文●氏原英明（ベースボールジャーナリスト）

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき／1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』（新潮社）、『メジャーをかなえた雄星ノート』（文藝春秋社）では監修を務めた。