今季開幕直後のこと。本拠地シティ・フィールドのベンチからフィールドの一部が見えにくいことに気づいたショーウォルター監督は、すぐさま球団にダグアウトの改築を願い出たという。“一国一城の主”の妥協を許さない姿勢は、ベテラン選手も多いメッツのクラブハウスでは好意的に捉えられたはずだ。
「最近はフロントの指示に言いなりの監督も多い中で、ショーウォルター監督はすべて自分の目で見て、自身で判断し、選手ともしっかりと対話し、チームをコントロールしている」
メッツのある関係者はそう証言していたが、これが監督として21シーズン目のショーウォルターは、そうやって自身で操縦できるチームでなければそもそも就任を承諾しなかっただろう。全権を持った監督の方が、メッセージを選手に届けやすいであろうことは容易に想像できる。
細部へのこだわりゆえ、過去にはマイクロマネジメント(過干渉)が批判されたこともあるショーウォルターだが、今季は人間らしい面も随所に見せている。15日のマリナーズ戦では、ファンを公言する人気歌手のシャキーラがシティ・フィールドを訪れて大喜び。監督会見の際にも「シャキーラに会うのを楽しみにしているんだよ」と話して笑いを誘ったが、始球式には登場しなかったために、がっくり肩を落としていたという。
66歳の誕生日だった23日へ向け、選手たちがシャキーラをもう一度招待しようと奔走したとも言われている。残念ながらこのアイデアは実現しなかったものの、チームの雰囲気が良好であることは十分伝わってくる。
もちろん、ここまでは順風満帆でも、長いシーズンの中ではアップ&ダウンはあるはずだ。デグロム、シャーザーの復帰が遅れた場合、クリス・バシット 、カルロス・カラスコ、タイフアン・ウォーカーが軸の先発投手陣で勝ち続けられるかどうか。
ニューヨークで2年目を迎えたフランシスコ・リンドーアがまだ爆発していないなかで、打線は得点力を保てるか。過去3度の最高監督賞受賞歴があるショーウォルター監督自身、まだワールドシリーズに出場した経験は一度もなく、証明すべきことは残っている。
ただ、少なくともこれまでのところ、多くのタレントが集まった今のメッツとプロ意識の高い指揮官はベストフィットに見える。何かと悲観的になりがちなメッツファンも徐々に今季のチームを信じ始め、シティ・フィールドの空気も明らかに変わってきたように感じられる。
だとすれば、“今年こそがその年(This might be the year)”か。まだ先は長いが、2022年のメッツは決して目の離せないチームであり続けそうな予感がすでにニューヨークに漂い始めている。
文●杉浦大介
【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
「最近はフロントの指示に言いなりの監督も多い中で、ショーウォルター監督はすべて自分の目で見て、自身で判断し、選手ともしっかりと対話し、チームをコントロールしている」
メッツのある関係者はそう証言していたが、これが監督として21シーズン目のショーウォルターは、そうやって自身で操縦できるチームでなければそもそも就任を承諾しなかっただろう。全権を持った監督の方が、メッセージを選手に届けやすいであろうことは容易に想像できる。
細部へのこだわりゆえ、過去にはマイクロマネジメント(過干渉)が批判されたこともあるショーウォルターだが、今季は人間らしい面も随所に見せている。15日のマリナーズ戦では、ファンを公言する人気歌手のシャキーラがシティ・フィールドを訪れて大喜び。監督会見の際にも「シャキーラに会うのを楽しみにしているんだよ」と話して笑いを誘ったが、始球式には登場しなかったために、がっくり肩を落としていたという。
66歳の誕生日だった23日へ向け、選手たちがシャキーラをもう一度招待しようと奔走したとも言われている。残念ながらこのアイデアは実現しなかったものの、チームの雰囲気が良好であることは十分伝わってくる。
もちろん、ここまでは順風満帆でも、長いシーズンの中ではアップ&ダウンはあるはずだ。デグロム、シャーザーの復帰が遅れた場合、クリス・バシット 、カルロス・カラスコ、タイフアン・ウォーカーが軸の先発投手陣で勝ち続けられるかどうか。
ニューヨークで2年目を迎えたフランシスコ・リンドーアがまだ爆発していないなかで、打線は得点力を保てるか。過去3度の最高監督賞受賞歴があるショーウォルター監督自身、まだワールドシリーズに出場した経験は一度もなく、証明すべきことは残っている。
ただ、少なくともこれまでのところ、多くのタレントが集まった今のメッツとプロ意識の高い指揮官はベストフィットに見える。何かと悲観的になりがちなメッツファンも徐々に今季のチームを信じ始め、シティ・フィールドの空気も明らかに変わってきたように感じられる。
だとすれば、“今年こそがその年(This might be the year)”か。まだ先は長いが、2022年のメッツは決して目の離せないチームであり続けそうな予感がすでにニューヨークに漂い始めている。
文●杉浦大介
【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
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