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プロ野球

3割打者は4人いても、今季以上の“投高打低”!史上初の「打率2割台の首位打者」誕生が期待(?)された1976年の思い出<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2022.07.25

 10月6日。首位打者候補のいる太平洋、南海、阪急の3球団は、この日ともに129試合目を終了。この時点で吉岡の打率は.3042。門田は.3017、藤原は.3013、加藤は.2984と、誰がタイトルを取ってもおかしくないような状況だった。

 翌10月7日に南海と阪急は、太平洋より先に最終130試合目を直接対決で迎えた。吉岡を抜くには、門田は2の2、藤原は3の3、加藤は4の4が必要だった。しかし門田は2の0でリタイア。藤原も5打数2安打、加藤は第1打席で安打を放ち、打率を3割ちょうどに載せると、あっさりベンチに退いた。かくして、シンデレラボーイ吉岡の首位打者がほぼ確定した。

 太平洋の最終戦は10月10日のロッテ戦。2打数無安打までならOKとあって、吉岡はプレッシャーから解放されたか、4打数3安打の固め打ちで、打率を一気に.3089まで上げ、見事にタイトルを手中に収めた。この成績は、首位打者としては現在まで破られていないリーグ最低打率だが、とにもかくにもファンが懸念した「3割打者消滅」は避けられたのだ。
 
 なお、この年のパの投高打低の印象は、セ・リーグとの対比で増幅された感がある。何しろ、セは全くの逆だったのだ。谷沢健一(中日)と張本勲(巨人)による首位打者争いは、ともに打率3割5分台というハイレベルで展開。谷沢が打率.3548、張本が.3547のわずか1毛差で決着する激戦だった。3割打者は実に15人もいた反面、防御率1位の鈴木孝政(中日)は2.98、ほぼ3点という「打高投低」だったのだ。

 長嶋巨人の人気に牽引され、球場に大挙詰めかけたファンに見守られ、華々しい打撃戦を展開するセ・リーグ。それに対しパ・リーグは、応援団長の三三七拍子と辛辣なヤジがだけがやけに響き渡るガラガラの球場で、玄人うけはするものの地味な投手戦の連続。あらゆる意味での好対照に、パの3割打者消滅危機がなおさらショッキングに感じられたのかもしれない。

 なお、同じ投高でも、今季と76年は少々事情が異なる。今年のパ・リーグの平均奪三振率は7.74(前半戦終了時点)だが、76年は4.31でしかない。一方で本塁打率にそこまで大きな違いはなく(76年は0.86、今季は0.67)、セイバーメトリクスで言うところの「本塁打を除くインプレー打球の打率は一定」の原則を考えると、三振が少ない方が高打率を誘引するはず。つまり、76年はもっと打高でもおかしくはなかったにもかかわらず、3割打者が消えかかったということは、やはり76年の投高ぶりは凄かったのだ。

文●豊浦彰太郎

【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
 

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