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MLB

プレーの主導権を再び選手たちの手へ――ピッチクロックやシフト禁止は行き過ぎたデータ野球への“防御壁”になるか<SLUGGER>

出野哲也

2022.09.24

 すでにこのルールが導入済みのマイナーリーグでは、平均30分近く短縮されたという結果を受け、MLBでも実施に踏み切ることになったのだ。ボークになる危険を冒してまで3回目の牽制を試みようとは、多くの投手は考えないだろう。必然的に2回目の牽制後は走者へのマークが甘くなると思われるし、最初から牽制そのものを諦める投手も増えるのではないか。

 ベースは現状の15インチ(38cm)四方から18インチ(46cm)四方へ拡大される。走者の安全を考慮して決められたもので、実質的にこれまでより大きなリードが取れることにもなる。数cm大きくなる程度で本当にそんな効果があるのか、と思われるかもしれないが、これもマイナーでの実験で検証されている。

 近年、アメリカではセイバーメトリクスの研究などから「盗塁はリスクが大きい作戦」との認識が浸透している。MLBの総盗塁数は01年の3103個から、20年後の21年には2213個と30%近くも減少していた。ここ5年間は、盗塁王ですら年間50個未満にとどまっている。だが、今回のルール変更によって、その傾向に歯止めがかかると思われる。

 また、盗塁数減少によって、捕手に求められる能力も肩の強さよりフレーミング技術が重視されていたが、こちらも昔ながらの強肩捕手が脚光を浴びるようになるかもしれない。
 今回のルール改正は、MLB機構が推し進める「球界改革」の一環でもある。かつてGMとしてレッドソックスとカブスを世界一に導き、現在はコミッショナー事務局のコンサルタントを務めるセオ・エプスティーンは就任当時「試合におけるアクションを増やすこと、ボールがもっとグラウンド上に飛ぶようにすること、選手たちの身体能力を発揮できるようにすること、ファンが求めているものを提供すること」を目標として掲げていた。

 データによって導き出された効率的な作戦を重視するあまり、選手間、チーム間というよりも「各球団のデータ分析部同士の戦い」になっているとの批判もあった近年のMLB。新ルールは総体的に「昔の野球」への回帰を促すものになっている。実際、好守の遊撃手として知られるフランシスコ・リンドーア(メッツ)は今回のルール改正について「どの変更点も気に入っている。全体的にもっと攻撃的になるだろうし、守備でも驚くようなプレーが増えるんじゃないか」と前向きに捉えている。

「選手たちがプレーの主導権を再び握れるようにしたい。データ分析がグラウンドに侵入しすぎないようなファイヤーウォールを構築しよう」と語っていたエプスティーン。来季からのMLBがどう変わるのか注目だ。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
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