一方で、シーンに登場した当初から漂わせていた「危うさ」のようなものも消えなかった。故障の多さ、気性の激しさ、勝ち運のなさもあって、「過大評価」と評されることも少なくなかった。中でも忘れられないのは、フィリーズ入団直後の19年春に起こした一件だ。4月、ニューヨークでのメッツ戦で審判の判定に激昂して退場処分となったハーパーは、試合後、チームメイトのジェイク・アリエタから公に批判されたのだった。
「審判がどれだけ酷かろうと、彼にはライトを守ってもらう必要があった。打席にも立ってもらう必要があったのに、そこにはいなかった。痛かったよ」
アメリカのプロスポーツ選手が、味方のプレーヤーに関して批判的なコメントを残すことは滅多にない。言いたいことがあれば、「メディアの見えないところで」というのが不文律だからだ。それだけにこの一件は、ハーパーの「危うさ」を象徴するエピソードとして受け止められた。
優れた個人成績を残しても、ハーパーのリーダーシップが称賛されたことはほとんどなかった。これまで、ナショナルズでも、フィリーズでも、チームの成功にはなかなか縁がなかったことも少なからず影響していたのだろう。
しかし今年、予想外のミラクルランを続けるフィリーズを支えるハーパーには確実に変化が感じられる。少しずつだが、大人の成熟を漂わせるようにもなっている。
かつて“神童”と謳われた男も、今では2児の父。28日の会見でのシャツ、ジーンズ、帽子をすべてブラックで統一したシックないで立ちは若い頃とそれほど変わらないが、表情は目に見えて穏やかになった。フィールド上でも、ほとばしる感情をボールにぶつけるようなプレースタイルからは少々変わってきようにも思える。その変化と歩調を合わせるように、ハーパーの存在感も変わり、チームに確実に好影響を及ぼしているように感じられる。
「重要な場面でも落ち着いていられるのはすごいことだ。彼は成長したのだろう。19年、俺が所属していたカブスを相手にサヨナラ弾を打った時、彼はクレイジーなほどに興奮していた。それが今では(逆転本塁打を)打っても、球場内の誰よりも落ち着いているんだから」。チームメイトのニック・カステヤノスの言葉は、ハーパーの変化を的確に表現している。
希有な才能を誇る激情型スラッガーは年齢を重ね、時にネガティブに作用した「危うさ」も消え失せた。変わって放射しているのは安定感。そんな境地に達した今、おそらくキャリアで初めて、真の意味でのリーダーとしてチームを引っ張ることができているのは偶然ではないはずだ。
そして、初の世界一まであと3勝。
「ワールドシリーズでのプレーは素晴らしいよ。ここにいれて嬉しいし、エキサイトしている。ただ、俺たちにはあと3勝が必要なんだ」
迎えた第2戦、フィリーズは2対5で敗れた。ハーパーも2度のチャンスに凡退し、ポストシーズンでの連続安打も11試合で途切れた。だが、頂点までの道が簡単なものでないことは誰よりもハーパー自身が分かっているはず。熱狂的なファンが待つフィラデルフィアに帰って、ハーパーのバットは再び火を噴くだろうか。
文●杉浦大介
【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
「審判がどれだけ酷かろうと、彼にはライトを守ってもらう必要があった。打席にも立ってもらう必要があったのに、そこにはいなかった。痛かったよ」
アメリカのプロスポーツ選手が、味方のプレーヤーに関して批判的なコメントを残すことは滅多にない。言いたいことがあれば、「メディアの見えないところで」というのが不文律だからだ。それだけにこの一件は、ハーパーの「危うさ」を象徴するエピソードとして受け止められた。
優れた個人成績を残しても、ハーパーのリーダーシップが称賛されたことはほとんどなかった。これまで、ナショナルズでも、フィリーズでも、チームの成功にはなかなか縁がなかったことも少なからず影響していたのだろう。
しかし今年、予想外のミラクルランを続けるフィリーズを支えるハーパーには確実に変化が感じられる。少しずつだが、大人の成熟を漂わせるようにもなっている。
かつて“神童”と謳われた男も、今では2児の父。28日の会見でのシャツ、ジーンズ、帽子をすべてブラックで統一したシックないで立ちは若い頃とそれほど変わらないが、表情は目に見えて穏やかになった。フィールド上でも、ほとばしる感情をボールにぶつけるようなプレースタイルからは少々変わってきようにも思える。その変化と歩調を合わせるように、ハーパーの存在感も変わり、チームに確実に好影響を及ぼしているように感じられる。
「重要な場面でも落ち着いていられるのはすごいことだ。彼は成長したのだろう。19年、俺が所属していたカブスを相手にサヨナラ弾を打った時、彼はクレイジーなほどに興奮していた。それが今では(逆転本塁打を)打っても、球場内の誰よりも落ち着いているんだから」。チームメイトのニック・カステヤノスの言葉は、ハーパーの変化を的確に表現している。
希有な才能を誇る激情型スラッガーは年齢を重ね、時にネガティブに作用した「危うさ」も消え失せた。変わって放射しているのは安定感。そんな境地に達した今、おそらくキャリアで初めて、真の意味でのリーダーとしてチームを引っ張ることができているのは偶然ではないはずだ。
そして、初の世界一まであと3勝。
「ワールドシリーズでのプレーは素晴らしいよ。ここにいれて嬉しいし、エキサイトしている。ただ、俺たちにはあと3勝が必要なんだ」
迎えた第2戦、フィリーズは2対5で敗れた。ハーパーも2度のチャンスに凡退し、ポストシーズンでの連続安打も11試合で途切れた。だが、頂点までの道が簡単なものでないことは誰よりもハーパー自身が分かっているはず。熱狂的なファンが待つフィラデルフィアに帰って、ハーパーのバットは再び火を噴くだろうか。
文●杉浦大介
【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
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