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アーロン・ジャッジは「62本塁打だから凄い」のではない。真に“歴史的”な打棒の意味を紐解く<SLUGGER>

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2022.11.02

歴史的貧打の今季にあって圧倒的な打棒を披露したジャッジ。その超人ぶりはボンズ(右上)やルース(右下)に匹敵する次元にあった。(C)Getty Images

歴史的貧打の今季にあって圧倒的な打棒を披露したジャッジ。その超人ぶりはボンズ(右上)やルース(右下)に匹敵する次元にあった。(C)Getty Images

 彼に次ぐア・リーグ2位の本塁打数は22本差でマイク・トラウト(エンジェルス)の40本。一方、ナ・リーグ本塁打王カイル・シュワーバー(フィリーズ)は46本を打ったが、それでもジャッジとの差は16本ある。本塁打両リーグ1・2位が16本差というのは、1932年のジミー・フォックス(58本)とベーブ・ルース(41本)以来の大差であり、この点だけでもジャッジの活躍が異次元級だったことが分かる。

【動画】ジャッジの“歴史的”62号本塁打! 感動の瞬間をチェック

 では、今シーズンのジャッジの「傑出度」は具体的にどれくらいのものだったのだろうか。

 異なる時代の選手を比較する際に有用な指標として、OPS+やwRC+がある。例えば、同じOPS.900でも投高打低のシーズンと打高投低のシーズンでは意味合いはまったく違う(当然、前者の方が価値は高い)。wRC+はリーグ平均を100とした場合にどれだけ得点創出能力が「傑出」していたかを示し、本拠地球場の特性も考慮されている。OPS+は同じようにOPSの傑出度を示すものだ。
 
 ジャッジの今季のwRC+は、歴代20位の「207」(OPS+は211)。「何だ、大したことないじゃないか」と思われる方もいるだろうが、その上にいるのはボンズ、ルース、“最後の4割打者”テッド・ウィリアムズ、“史上最高の二塁手”ロジャース・ホーンズビー、三冠王を獲得したミッキー・マントル、56試合連続安打記録保持者のルー・ゲーリッグという6人のレジェンドだけ。少々大げさに言えば、ジャッジは“神の領域”に足を踏み入れていたことになるのだ。

「ジャッジは狭いヤンキー・スタジアムだから本塁打が多い」との声も一部で聞かれる。しかし、飛距離や天候などを基にして実際にどれだけの本塁打を打っていたのか示すxHRという指標では61.9本と算出されている。球場の恩恵を特別大きく受けていたわけではない。

 ヤンキー・スタジアムは右翼が狭いゆえに打者有利という印象を持たれがちだが左中間は広く、こと右打者に限れば中立な球場だ。実際、今季の右打者の本塁打指数はメジャー15位。実際、ジャッジはホームで打率.308、30本、OPS1.081に対し、アウェーでも.313、32本、1.141とよく打っている。本拠地云々は完全な言いがかりに過ぎない。

 ジャッジが今シーズンに見せた打棒は、球史全体でも指折りの傑出ぶりだった。大谷が二刀流で歴史を作り上げているように、ジャッジもまた歴史的な活躍を見せていたのだ。

 もちろん、大谷もMVPにふさわしい活躍を残した。もし、ジャッジと大谷がそれぞれ別のシーズンでプレーしていたとすれば、どちらも満票でMVPに選ばれていただろう。どちらがMVPに輝くにしても、もう一方へのリスペクトを忘れるべきではないだろう。

文●新井裕貴(SLUGGER編集部)

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