続くロジャースにも連打を許して、2死ながら一、二塁という今度は本当のピンチを迎えたのだから、ノーヒッターを逃したことに何の感情も持つはずがない。
圧巻はこの場面で、4番ノーラン・ジョーンズの初球に投球間隔制限=ピッチクロック違反で1ボールとされながらも91.8マイルの速球、82.4マイルのスライダー、そして92.6マイルの速球で空振り三振に打ち取ったことだろう。
ジョーンズのバットが空を切った瞬間、今永はマウンド上で思わず叫んだ。
「何て言ったかは覚えてないですけど」と今永。
「とりあえず雄叫びを上げて、その後に多分、『Let's Go!』って言ったんで、少しアメリカ人になってるかもしれないです」
会見場がクスクス笑いに包まれたことは、言うまでもないだろう。
現地のベテラン記者から、リスペクトを込められながら「(日本では)あなたはベテランだが」と質問されると、「僕はまだ若いです」とすかさず答えて笑わせるなど、アメリカ人記者とのやり取りも堂に入っていた。個人的に感心したのは、違うアメリカ人記者から、「ロッキーズはゴロによるアウトが1つもなかったが、これはあなたにとって普通のことなのか?」と問われた時の答えだ。
「フライボールが割合高いピッチャーですが、僕はそれが決して良いこととは思ってない。それで打ち取れている時は良いですけど、ハードヒットが増えてきた時に、何か配球を変えたりとか、考えることが増えると思う。フライボールでアウトが取れている時はそのまま続けますけど、それが強い打球が飛び出した時にどうするかが、今後の課題」。 超・超・超訳すれば、「今日は良かったけど、だから何よ?」ということだろう。
当たり前の話だが、今永はメジャーデビュー戦で好投するためだけにカブスと契約したわけではないし、たった1勝のためにメジャーリーグに挑戦しているわけでもない。
「これを船出で例えるなら、まだ船からロープを外しただけというか、まだこれから150試合以上あるわけで、『よし、これでやれるぞ!』なんて気持ちはまったくない。まだまだ自分が苦しいと思う時もあるので、今日は(初勝利の)余韻に浸りますけど、また気を締めて過ごしたいなと思います」
補足するなら、「初めてカブスという名の船に乗ったのに、とてもスムーズにロープを外せた」ということになるだろうか。
とにかく彼は今、カブス号の乗員として港を離れ、メジャーリーグという名の大きな海に出た。今は穏やかに見える海が、この先とこかで荒れることもあれば、嵐にも遭遇するかも知れない。それでもなぜか、彼が航路に迷ったり、操船術に溺れることはないだろうと思う。ましてや彼が、荒れ狂う海のおかげで船酔いするところは想像できない。
「試合が終わった後、(買い物用の)カートに乗せられて、ビールとかいろいろかけられたんですけど、何でも混ぜればいいわけではないなっていうのは、勉強になりましたね」
破顔一笑の今永昇太。
彼が次に酔うのは、この大航海の最終目標、「ペナントレースを制する時」かも知れない――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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ジョーンズのバットが空を切った瞬間、今永はマウンド上で思わず叫んだ。
「何て言ったかは覚えてないですけど」と今永。
「とりあえず雄叫びを上げて、その後に多分、『Let's Go!』って言ったんで、少しアメリカ人になってるかもしれないです」
会見場がクスクス笑いに包まれたことは、言うまでもないだろう。
現地のベテラン記者から、リスペクトを込められながら「(日本では)あなたはベテランだが」と質問されると、「僕はまだ若いです」とすかさず答えて笑わせるなど、アメリカ人記者とのやり取りも堂に入っていた。個人的に感心したのは、違うアメリカ人記者から、「ロッキーズはゴロによるアウトが1つもなかったが、これはあなたにとって普通のことなのか?」と問われた時の答えだ。
「フライボールが割合高いピッチャーですが、僕はそれが決して良いこととは思ってない。それで打ち取れている時は良いですけど、ハードヒットが増えてきた時に、何か配球を変えたりとか、考えることが増えると思う。フライボールでアウトが取れている時はそのまま続けますけど、それが強い打球が飛び出した時にどうするかが、今後の課題」。 超・超・超訳すれば、「今日は良かったけど、だから何よ?」ということだろう。
当たり前の話だが、今永はメジャーデビュー戦で好投するためだけにカブスと契約したわけではないし、たった1勝のためにメジャーリーグに挑戦しているわけでもない。
「これを船出で例えるなら、まだ船からロープを外しただけというか、まだこれから150試合以上あるわけで、『よし、これでやれるぞ!』なんて気持ちはまったくない。まだまだ自分が苦しいと思う時もあるので、今日は(初勝利の)余韻に浸りますけど、また気を締めて過ごしたいなと思います」
補足するなら、「初めてカブスという名の船に乗ったのに、とてもスムーズにロープを外せた」ということになるだろうか。
とにかく彼は今、カブス号の乗員として港を離れ、メジャーリーグという名の大きな海に出た。今は穏やかに見える海が、この先とこかで荒れることもあれば、嵐にも遭遇するかも知れない。それでもなぜか、彼が航路に迷ったり、操船術に溺れることはないだろうと思う。ましてや彼が、荒れ狂う海のおかげで船酔いするところは想像できない。
「試合が終わった後、(買い物用の)カートに乗せられて、ビールとかいろいろかけられたんですけど、何でも混ぜればいいわけではないなっていうのは、勉強になりましたね」
破顔一笑の今永昇太。
彼が次に酔うのは、この大航海の最終目標、「ペナントレースを制する時」かも知れない――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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