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MLB

【なぜMLBで投手の故障が急増しているのか:前編】「最高レベルの才能が驚異的な勢いで失われている」米球界に広まる危機感<SLUGGER>

出野哲也

2024.04.22

 4月7日、MLB選手会はピッチクロックへの疑念を呈する声明を発表した。「我々が全会一致で反対し、かつ健康と安全に関する重大な懸念があるにもかかわらず、コミッショナー事務局はピッチクロックの時間を短縮した」。そうした切実な声に耳を貸さないMLBの姿勢を、トニー・クラーク事務局長は「野球とその最も価値のある資源、すなわち選手たちにとって前例のない脅威」と糾弾している。

 大谷も翌8日、大谷も「短い時間で多くの仕事量をこなすというのは(身体への)負担自体は間違いなくかかっていると思う」と発言。自身の怪我との関連がどの程度あるか確証はないとしながらも「ピッチクロックは身体への負担自体は増えていると思います」と断言した。

 こうした意見にMLBは「ピッチクロックによって故障が増えた証拠はない」と反論。根拠としてジョンズ・ホプキンス大学による研究を挙げ、故障との関連性は、選手会が声明で触れなかった球速や回転量の増加の方が高い、と主張した。
 確かに、3月には元投手や医師など約100人に聞き取り調査を実施するなど、MLBがまったく予防策を講じていないわけでもない。だが、コールは「1年だけで影響がないと言い切れるわけがない」と研究結果を疑問視。「MLBは選手を大切にしようとしていない」と不快感を露わにした。

 選手会とMLBが非難を応酬する事態に、前出のパッサンは「これほど複雑で困難な問題に対しては、すべての関係者が手を取り合って事に当たらねばならないのに」と協調性の欠如を嘆いている。

 ピッチクロックは、ロブ・マンフレッド・コミッショナーのライフワークとも言うべき“時短”に絶大な効果があった。22年に平均3時間4分かかっていた試合時間は、昨年は2時間40分と24分も短くなった。そのおかげか、観客動員も前年より9.1%も増加し、積年の課題である若年層へのアピールにも成功した。

 これに気を良くして、今季はさらなるピッチクロックの強化を図った。塁に走者がいる場合、昨年は20秒だったのを18秒に減らしたのである。しかし、前述の通り選手会の同意を得たものではなく、拙速の謗りは免れなかった。選手会の声明に対する反応の激しさは、時短という大目標に影響が及ぶことのないよう、意図的に目を背けているからのようにも思える。
【後編へ続く】

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

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