真の原因は一つではなく、さまざまな要素が複合して起こっているのだと思われる。ダルビッシュも持論である「先発の登板間隔の短さ、過密日程などいろんな要因」に加えて「ボールが飛ぶようになってから、もっと球を速く投げる、全力で投げに行かなきゃいけなくなって、危ないなと思っていました」と投球の高速化にも言及。ピッチクロックに関しては、故障の原因だとは言わなかったが「しんどいですよ、やっぱり」と吐露していた。
自身も21年にTJ手術で全休したジャスティン・バーランダー(アストロズ)も、同じように多くのことが少しずつ影響しており、ピッチクロックが原因だというのは安易に過ぎると考えている。「一番大きな理由は、投球スタイルが変わったことだろう。誰もが出来得る限り全力で、高回転のボールを投げるようになったからだ。100マイルの球を投げられる投手に、そうしないよう言い聞かせることなんてできない」。
振り返ってみると、10年前の14年にもTJ手術の頻発は大きな問題となっていた。前年の新人王ホセ・フェルナンデス(当時マーリンズ)、同じく17勝を挙げたマット・ムーア(レイズ)ら、若く優秀な投手たちが相次いで手術に至り、この年ヤンキースに加入し、前半戦で大活躍した田中将大も靭帯を損傷。保存療法を選択したが、2ヵ月半にわたる離脱を強いられた。 当時も多種多様な要因が挙げられ、その中には存在しなかったピッチクロックは、故障の危険性が増す原因の一つではあるかもしれないが、一番の理由とは考えにくい。
となれば、MLBがピッチクロックをやめることはないだろう。明白な根拠があるならともかく、そうではないのだし、野球人気回復の切り札を失いたくはないはずだからだ。けれども選手会の言う通り、どれだけ試合がスピーディーに進もうが、目当ての選手がいないのではファンの満足を得られるわけはない。ピッチクロックと故障の関連は引き続き研究を進めるべき課題であり、重大な影響があると結論づけられれば、早急に見直す必要がある。
クレイトン・カーショウ(ドジャース)は「原因を究明できた人間は何億ドルも稼げるだろう。だって誰にも分かっていないんだから」と言う。かつて「不治の病」とされていたUCLの断裂は、TJ手術の発明によって回復可能となった。そのTJ手術に至るのを防ぐ方法が見つかるなら、それは確かに何億ドルもの価値はあるに違いない。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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振り返ってみると、10年前の14年にもTJ手術の頻発は大きな問題となっていた。前年の新人王ホセ・フェルナンデス(当時マーリンズ)、同じく17勝を挙げたマット・ムーア(レイズ)ら、若く優秀な投手たちが相次いで手術に至り、この年ヤンキースに加入し、前半戦で大活躍した田中将大も靭帯を損傷。保存療法を選択したが、2ヵ月半にわたる離脱を強いられた。 当時も多種多様な要因が挙げられ、その中には存在しなかったピッチクロックは、故障の危険性が増す原因の一つではあるかもしれないが、一番の理由とは考えにくい。
となれば、MLBがピッチクロックをやめることはないだろう。明白な根拠があるならともかく、そうではないのだし、野球人気回復の切り札を失いたくはないはずだからだ。けれども選手会の言う通り、どれだけ試合がスピーディーに進もうが、目当ての選手がいないのではファンの満足を得られるわけはない。ピッチクロックと故障の関連は引き続き研究を進めるべき課題であり、重大な影響があると結論づけられれば、早急に見直す必要がある。
クレイトン・カーショウ(ドジャース)は「原因を究明できた人間は何億ドルも稼げるだろう。だって誰にも分かっていないんだから」と言う。かつて「不治の病」とされていたUCLの断裂は、TJ手術の発明によって回復可能となった。そのTJ手術に至るのを防ぐ方法が見つかるなら、それは確かに何億ドルもの価値はあるに違いない。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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